※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 それから数日後のこと。

 アビゲイルは買い出しと称し、最寄りの町で国や敵国の情報を集めていた。荷物持のトロイも一緒だ。

 本当はロゼッタを一人森に残すことに不安はあったが、ライアンはああ見えて相当な手練れらしい。安心して任せることにした。

 あの後もロゼッタとライアンとの関係は変わらなかった。二人はとても仲睦まじく、いつも楽しそうに笑いあっている。

 けれど互いに二度と、婚約者について打ち明けることは無いし、二人の関係がそれ以上進むことも無かった。


「この国って案外栄えてるのな」


 町を見回しながら、トロイがポツリと漏らす。


「どうだろう?私もこの町を訪れるのは初めてだから――――」


 言いながらアビゲイルは、妙な違和感を覚えてその場に立ち止まった。


「おまえ、この国のものではないのか?」


 思わぬことにアビゲイルが首を傾げた。


「あぁ……っていうか、あの森は――――――」


 トロイが徐に口を開く。

 けれどその時。アビゲイルの耳に、もっと重要な情報が飛び込んで来た。


「うちの姫様、婚約を破棄されそうなんだってよ」

「は?姫様の婚約のお相手ってのは確か、隣国の王子だろう?そりゃまたどうして?」


 アビゲイルたちのすぐ側で、少し年配の町人たちがそんなことを話している。

 うちの姫様というのは言わずもがな。ロゼッタのことだ。


(まさか……どうして王女様が)


 隣国にロゼッタが行方不明なことが伝わったのだろうか。だとしても、生死不明なだけでこんなにも早く婚約破棄されるとは思えない。


「それがな、なんでもお相手に、添い遂げたい女性ができたとかで……」

「おいっ!その話は本当か!?」


 気づけばアビゲイルは、町人に詰め寄っていた。その恐ろしい剣幕に、町人たちが後ずさりする。


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