※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「……最初の狙い通り、報酬はきっちりいただくよ」


 何故だか熱を帯びた声音に、アビゲイルの心臓がトクンと跳ねた。


「ま、またその話?報酬の件なら陛下に交渉してからになるから――――」


 一国の王女を保護した。その報酬は当然大きい。
 国王への交渉次第で、金額はさらに跳ねあがるだろう。


「ううん。その必要はないよ」


 トロイはそう言って笑うと、アビゲイルの唇をゆっくりと撫でた。アビゲイルの頬が真っ赤に染まる。


(何か……何か言わなきゃ)


 アビゲイルが口を開きかけたその時、柔らかな何かが唇を塞いだ。唇から全身に広がっていく痺れるような甘さと熱。吐息まで奪われて、頭がクラクラした。

 どのぐらいそんな状態が続いただろう。気づいたらアビゲイルはトロイの腕の中にいた。


「これが報酬――――?」


 初めての口付けの余韻に浸りながら、アビゲイルが問いかける。普段は凛々しい女騎士も、こういう時は乙女になってしまうものだ。


「え?違う違う。こんなんじゃ全然足りないよ」

「はぁ!?」


 先程までの余韻はどこへやら。アビゲイルは険しい表情で、トロイを睨みつけた。


「俺と結婚してよ、アビー」

「…………え?」


 全く予想だにしていないセリフだった。時が止まったかのような感覚。ビックリし過ぎて、アビゲイルは固まってしまう。

 けれど、甘やかな優しい笑顔に真摯な瞳。トロイが本気なことはすぐに分かった。


「アビーはさ、王女様についてうちの国に来るんだろう?」

「えっ?まぁ、それは……そうなる筈だが」

「だったら猶更。俺は良い結婚相手になると思うよ」


 断らせる気なんてサラサラないのだろう。トロイは少しずつ少しずつ、アビゲイルの退路を断っていく。何を問いかけても、笑顔でそれを否定する。

 その度に優しく頬に口付け、満足気に微笑む様が腹立たしいが、同時にドキドキしている自分が――――喜んでしまっている自分がいるのも事実で。


「――――いや、報酬高すぎだろう?」


 顔を真っ赤にしたアビゲイルが呟くと、トロイは声を上げながら、幸せそうに笑ったのだった。


(END)
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