※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 ブリジットの提示した結婚の条件は、まるで男性側が描きがちな理想そのものだった。
 余所に女や子供を作ることを容認する上、帰宅が数日おきになったとしても構わない。ただ人並みに、食事や睡眠が摂れて、家の評判が著しく悪くならなければ、それで構わないのだと言う。


「もっとご自分を大切になさったらどうですか?」


 ブリジットのあまりのドライさに、ヒューゴは思わずそう口にする。けれどブリジットはキョトンと首を傾げ、唇を尖らせた。


「まぁ! ……私は結婚に夢を見て、辛い思いをする方が、余程自分を大切にしていない気がいたします」


 まるで悟りを開いたかのようなブリジットの言葉。ヒューゴだけでなく、使用人たちまで表情を曇らせる。


(この子は一体、どんな環境で育ってきたんだ?)


 ヒューゴは思わずそう声に出しそうになって、必死に口を噤んだ。
 とはいえ、結婚観以外は至って普通――――いや、極めて理想的な女性であるブリジットを拒む理由は存在しない。二人は正式に婚約を結ぶことになった。


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