※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「ブリジット、少し良いかい?」


 ある日ヒューゴは、ブリジットを街に連れ出した。二人は目的地も定めず、ただ並んで会話をしたり、時に店を覗いたりしながら、穏やかな時を過ごしている。
 ブリジットはとても不思議だった。これまでは目を背けていた、家族連れや夫婦、恋人たちが今では自然に受け入れられる。彼等の間にあるのは『偽物の愛情』ではなく本物で、本当に互いを想い合っていると感じることが出来たのだ。


「あの……どうして今日、私を誘ってくださったのですか?」


 ブリジットは躊躇いがちに、ヒューゴに尋ねる。自分の中に、これまで存在しなかった感情――期待が育ち始めているのを感じている。ブリジットにとって、何かを期待することは、とてもとても怖いことだ。


(だけど、この人だったら信じて良いのかもしれない)


 胸をドキドキと騒めかせつつ、ブリジットはヒューゴを見つめる。ややしてヒューゴは、ブリジットの頭を優しく撫でた。


「ブリジットのことを、もっと知りたかったから」


 穏やかな笑み。頑なだった心が解きほぐされていくのが分かる。
 ヒューゴの言葉には嘘がない。きっとまだ、互いに『好き』だと口にする程、二人の関係は進んでいなくて。けれど、そうなっていきたいのだという強い意志を感じる。


「私も、ヒューゴ様のことをもっと知りたいと思っています」


 これまでのブリジットだったら考えられない言葉。ヒューゴは目を細めて笑うと、ブリジットの手を優しく握ったのだった。


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