※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「――――わたしからすれば、義母さまがあんなに不幸な結婚生活を送っているっていうのに、結婚に夢を見ているあなたの方が頭がおかしいと思うわ。スカーレット、あなたはいつも『所詮、あなたは愛されない』ってわたしに言っていたけど、冗談。愛されていないのはスカーレット、あなたも一緒でしょう?」


 その瞬間、スカーレットの目がカッと見開き、手が大きく振り上げられる。


(打たれる……!)


 けれど、その手が振り下ろされることはなかった。


「俺の婚約者を傷つけるのは止めていただきたい」

「ヒューゴ様……」


 間一髪。スカーレットの手は、ヒューゴによって宙に縫い留められていた。


「なっ……! まさか、あなたがヒューゴ様だっていうの⁉」


 散々馬鹿にした、自身の婚約者になるはずだった人物。それが、想像以上にカッコよく、逞しい人物なのだと知ったスカーレットは、驚きのあまり愕然とする。


「そんな! そうだと知っていたらわたくし、ミカエルなんかと婚約したりしませんでした! あぁ、今からでも遅くありませんわ。お姉さまとわたくしの婚約者を取り替えましょう! そうすればきっと、全てが上手く――――」

 けれどヒューゴは、大層冷ややかな目でスカーレットを睨んでいた。ヒューゴはスカーレットへの嫌悪感を露にしつつ、ブリジットをそっと腕に収める。スカーレットの瞳孔がカッと見開かれた。


「俺の婚約者は君じゃない。ブリジットだ。俺はブリジットと夫婦になる。必ずブリジットを幸せにする」


 ヒューゴは迷いなく、そう言い放った。ブリジットは瞳いっぱいに涙を溜め、ヒューゴのことを見つめている。スカーレットは唇をギザギザに引き結び、地団太を踏むと、その場から一目散に逃げ出した。ブリジットたちはそんなスカーレットの後姿を見送りつつ、躊躇いがちに互いを見つめる。


「ヒューゴ様。わたしはこれまで、貴族の結婚に愛情は必要ないと思っていました。その方が上手く行く。傷つかずに済むのだと。けれど――――そうではない結婚もある。そう思ってもよろしいでしょうか?」

「……もちろん。そうしてくれると、俺も嬉しい」


 ヒューゴの返答に、ブリジットは嬉しそうに笑う。

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