※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

3.俺の話を聞いてもらえますか?(1)

「シュリズィエに聞いて欲しいことがあるの」


 ある日、私を呼び出した両親は、顔を見合わせながらそう言った。


「どうしたのです? そんなに改まって」


 親子でも滅多に顔を合わせないなんてご家庭も多いと聞くけど、うちは違う。家族仲は良好だし、食事も一緒に取るようにしている。そんじょそこらの貴族よりも余程、仲睦まじい――――それがこの国の王家、フリュヴェラ家の特徴だ。


「それがね……ふふ」


 父と母は、互いに発言を譲り合いつつ、ほんのりと頬を染めて微笑んでいる。二人とも、もう良い年だというのに、まるで成人したての恋人同士のようだ。ちっとも内容が想像できずに首を傾げると、ようやく決着がついたのか父がコホンと咳ばらいをした。


「赤ちゃんが出来たんだ」

「…………は?」


 一瞬だけ『誰に?』って聞こうと思ったけど、二人の様子を見るに不毛な質問だろう。愛妻家のお父様はこれまで愛人を一人も作ることがなかったし、万が一余所に子が出来たのだとしたら二人で話をしに来る筈ないもの。


「――――お母さま、一体お幾つでしたっけ?」

「それ、聞いちゃう?」


 母は唇を尖らせながら頬を染める。私の記憶が間違っていなければ、母は今年で36歳。医療の発達していないこの時代においては、超の付く高齢出産だ。


「一体どうしてこのタイミングで?」

「どうしてって聞かれても、こればかりは授かり物だし……」


 そう言って父は言葉を濁す。それはそうかもしれないけど、何となく釈然としない。正直言って重臣や国民達を含めて皆、二人に私以外の子は生まれないだろうと諦めていた。
 我が国では王位継承権は王の直系男子が第一、次いで王弟、それでもダメなら女子が継ぐことになっている。父に弟はおらず、我が家に男子はいない。つまり、私が王位を継ぐはずだった。


「男の子かな? 女の子かな?」


 もしも生まれてくる子が男の子なら――――私の王位継承権は下がる。自分が王の器とは思えないから、正直言って男の子の方がありがたいんだけど。


「シュリったら、気が早いわよ? 出てくるまで分からないわ……今からだと、大体七か月後ね」


 母はそう言ってコロコロと笑う。父も満足そうに頷きながら、私と母のことを交互に見た。その顔が、何だかとても幸せそうで、こちらまで穏やかな気持ちになってくる。


(無事に生まれてくると良いなぁ)


 そんなことを思いながら、私は笑みを浮かべた。


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