※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「ずっと――――君に伝えたいことがあったんだ」


 その途端、ドクンと大きな音を立てて心臓が鳴り響く。全身の血がザワザワと騒いで、息が苦しくなった。


(本当は婚約者が居ること? それともわたしを弄んでいたこと?)


 そう考えると、目頭がグッと熱くなる。けれど、こんな状況下ですら、わたしは胸のどこかで彼からの愛の告白を期待していた。本当に救いようがない――――大馬鹿者だ。


「シュザンヌ――――君に伝えたいことがある」


 アントワーヌ様は繰り返しそう口にする。


「わたしは……アントワーヌ様とお話しすることはございません」


 やっとの思いで口にした言葉は、情けない程に震えていた。大きくて熱い手のひらの温もりを惜しみつつ、わたしはそっと呪文を唱える。次の瞬間、アントワーヌ様をその場に残し、わたしの身体は自室へと転移していた。手のひらにはまだ、アントワーヌ様の温もりが残っている。


(アントワーヌ様……)


 己の手のひらに口付けつつ、わたしはそっと天を仰いだ。



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