※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「……え?」
呟きつつ、わたしは思わず頭を上げた。その瞬間、目の前に跪いている一人の男性に目が留まる。
「アントワーヌ様……」
そう呟いた時には、わたしは彼の腕の中に居た。ドクンドクンと心臓が鳴り響き、胸が苦しくて堪らなくなる。その時、シャルレーヌ様がクスリと笑う声が聞こえて、わたしはハッと首を横に振った。
「アントワーヌ様、止めてくださいっ……! 婚約者の前なのに――――!」
「シャルレーヌはもう、僕の婚約者じゃないよ」
アントワーヌ様はそう言って、ギュッとわたしを抱き締めた。訳が分からないまま、わたしはひっそりと息を呑む。アントワーヌ様は小さくため息を吐きつつ、徐に口を開いた。
「実は――――ずっと前から、『婚約を解消したい』とシャルレーヌに相談されていたんだ。
元々僕達はいとこ同士で、結婚のメリットはあまり大きく無かったし、シャルレーヌには他に愛する人ができたからね。
だけど『婚約を解消するなんてあり得ない。他に好きな相手がいるなら、結婚した後に好きなだけ愛し合えば良い』って言う僕の父を説得するのに時間が掛かって、ズルズルと婚約を続けていた。その時点では僕にも婚約を解消する理由は無かったし、父の言うことも一理あるかもしれないと思っていた。
そんな時に、出会ったのがシュザンヌ――――君だった」
そう言ってアントワーヌ様は穏やかに目を細める。思わぬことに、わたしは目を見開いた。
「君に出会って、僕はようやくシャルレーヌの気持ちが分かった。本当に好きな人が――――シュザンヌがいるのに、どうして他の人と結婚しなければならないのだろう――――そう思ったから、僕はシャルレーヌと一緒になって、必死で父を説得した。
その時点では、君が僕をどう思っているかは分からなかった。振られるかもしれない。君のご両親に結婚を認めてもらえないかもしれない――――そう思ったけど、それでも僕はシャルレーヌとの婚約を正式に解消してから、君に気持ちを伝えようって決めていた。
そうして、ようやく父の説得に成功したのが一ヶ月前のこと。だけど、いざ気持ちを伝えようという時になって、君は唐突に図書館に来なくなってしまったんだ」
アントワーヌ様は困ったように眉を寄せ、わたしからそっと目を逸らした。
呟きつつ、わたしは思わず頭を上げた。その瞬間、目の前に跪いている一人の男性に目が留まる。
「アントワーヌ様……」
そう呟いた時には、わたしは彼の腕の中に居た。ドクンドクンと心臓が鳴り響き、胸が苦しくて堪らなくなる。その時、シャルレーヌ様がクスリと笑う声が聞こえて、わたしはハッと首を横に振った。
「アントワーヌ様、止めてくださいっ……! 婚約者の前なのに――――!」
「シャルレーヌはもう、僕の婚約者じゃないよ」
アントワーヌ様はそう言って、ギュッとわたしを抱き締めた。訳が分からないまま、わたしはひっそりと息を呑む。アントワーヌ様は小さくため息を吐きつつ、徐に口を開いた。
「実は――――ずっと前から、『婚約を解消したい』とシャルレーヌに相談されていたんだ。
元々僕達はいとこ同士で、結婚のメリットはあまり大きく無かったし、シャルレーヌには他に愛する人ができたからね。
だけど『婚約を解消するなんてあり得ない。他に好きな相手がいるなら、結婚した後に好きなだけ愛し合えば良い』って言う僕の父を説得するのに時間が掛かって、ズルズルと婚約を続けていた。その時点では僕にも婚約を解消する理由は無かったし、父の言うことも一理あるかもしれないと思っていた。
そんな時に、出会ったのがシュザンヌ――――君だった」
そう言ってアントワーヌ様は穏やかに目を細める。思わぬことに、わたしは目を見開いた。
「君に出会って、僕はようやくシャルレーヌの気持ちが分かった。本当に好きな人が――――シュザンヌがいるのに、どうして他の人と結婚しなければならないのだろう――――そう思ったから、僕はシャルレーヌと一緒になって、必死で父を説得した。
その時点では、君が僕をどう思っているかは分からなかった。振られるかもしれない。君のご両親に結婚を認めてもらえないかもしれない――――そう思ったけど、それでも僕はシャルレーヌとの婚約を正式に解消してから、君に気持ちを伝えようって決めていた。
そうして、ようやく父の説得に成功したのが一ヶ月前のこと。だけど、いざ気持ちを伝えようという時になって、君は唐突に図書館に来なくなってしまったんだ」
アントワーヌ様は困ったように眉を寄せ、わたしからそっと目を逸らした。