※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


「シュリ――――あなた、馬鹿なの?」

「へ?」


 それは、父母から今回の件の開示を許可された、もう一人の人物から放たれた言葉だった。


 父方の従姉妹であり、公爵令嬢のジェニュインだ。数年前、聖女の力に目覚めた彼女は、城内の一室で生活をしている。高齢出産の母のこと。今後彼女には色々と助けてもらうだろうからと、私から話をすることになったのだけれど。


「あなたが将来女王にならないってことは、レグラス様が王配になる道も無くなるってことでしょう?」

「えっ……? えぇ、まぁそうなるわね」

「そんなの、レグラス様にとっては地獄じゃない。折角これまで、王配になるために必死で努力してきたのに、ある日いきなり『別に後継者ができたから用済み』になった、ってことでしょう?」

「へ?」


 正直言って私は、そんな風に考えたことが無かった。彼はいつも淡々としていて、努力とか苦労とか、そういう素振りを見せたことすら無かったから。


「お気楽なあなたは知らないかもしれないけど、相当大変らしいわよ。常に品行方正を求められる上、何でも一番にならなきゃならないし。折角モテるのに、世間の目があるから令嬢方との会話もままならない。彼が『冷たい』と囁かれるようになったのは、あなたの婚約者になったからだって専らの噂なんだから」

「そうなの⁉」

「そうよ。それだって、女王の配偶者になれると思えばこそ我慢できたんでしょうに……きっとレグラス様は落胆なさったはずよ。肝心なあなたは、彼の苦しみに寄り添うどころか、呑気に喜んでいるのだし」


 ジェニュインの言葉が鋭利に私の胸に突き刺さる。


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