※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「母は秘密裏に私を妊娠、出産し、とある伯爵家へ預けました。父が国王に即位したことを快く思わない勢力があることに気づいていたからです。そうして私は、兄がなくなるまでの十数年間、伯爵家の令嬢として大事に育てられました。あのまま兄が無事であれば、私はどこかの貴族に嫁いで、普通の幸せを手にしていたことでしょう」
その時、何処からか視線を感じて、クロノスはそっと身じろぎする。顔を上げられないことがもどかしい。けれど、この場で変な動きをすれば、それだけで命を落としかねない。クロノスのすぐ側に、衛兵の構えた槍が光を放っているのだ。
「けれど、そうはならなかった。父からの手紙で兄が殺された事を知り、私は伯爵家を出ました。次の王として即位するために。あなた方に気づかれぬよう、着々とその準備を進めていたのです」
女王の後ろには、幾人もの貴族や騎士たちが控えている。きっと、国王は信頼のおける配下には予め娘の存在を知らせていたのだろう。
誰がどう見ても、こちらに勝ち目は残っていない。クロノスは絶望感に打ちひしがれた。
「お話は以上です。連行してください」
最早反論する力は誰にも残っていないのだろう。一人、また一人と断罪された人間が連れていかれる。次はもう、クロノスの番だ。
「待ってくれ!おかしいだろう?」
騎士に腕を掴まれたところで、クロノスは思わず声を上げる。
辺りがシンと静まり返り、頭を垂れたままでも注目が己に集まっているのが分かった。
「女王陛下!あなたの兄上が殺されたとき――――私はまだ、ブラウン公爵とはなんの関係もなかった!爵位にだって就いてなかった!……父上だって同じだ、何も知らない!何もしていない!ですから俺の家は何の関係もございません!」
必死に声を張り上げ、クロノスは拳を握りしめる。
「――――――確かに、あなたは直接この件に関係がないかもしれません」
呟くようにそう言ったのは女王だった。暗闇に差し込んだ一筋の光に、クロノスの心臓は高鳴る。
「けれど、私は名実ともに『最高の女』になりましたから」
「…………え?」
その刹那、クロノスは再び絶望の淵へと突き落とされた。
その時、何処からか視線を感じて、クロノスはそっと身じろぎする。顔を上げられないことがもどかしい。けれど、この場で変な動きをすれば、それだけで命を落としかねない。クロノスのすぐ側に、衛兵の構えた槍が光を放っているのだ。
「けれど、そうはならなかった。父からの手紙で兄が殺された事を知り、私は伯爵家を出ました。次の王として即位するために。あなた方に気づかれぬよう、着々とその準備を進めていたのです」
女王の後ろには、幾人もの貴族や騎士たちが控えている。きっと、国王は信頼のおける配下には予め娘の存在を知らせていたのだろう。
誰がどう見ても、こちらに勝ち目は残っていない。クロノスは絶望感に打ちひしがれた。
「お話は以上です。連行してください」
最早反論する力は誰にも残っていないのだろう。一人、また一人と断罪された人間が連れていかれる。次はもう、クロノスの番だ。
「待ってくれ!おかしいだろう?」
騎士に腕を掴まれたところで、クロノスは思わず声を上げる。
辺りがシンと静まり返り、頭を垂れたままでも注目が己に集まっているのが分かった。
「女王陛下!あなたの兄上が殺されたとき――――私はまだ、ブラウン公爵とはなんの関係もなかった!爵位にだって就いてなかった!……父上だって同じだ、何も知らない!何もしていない!ですから俺の家は何の関係もございません!」
必死に声を張り上げ、クロノスは拳を握りしめる。
「――――――確かに、あなたは直接この件に関係がないかもしれません」
呟くようにそう言ったのは女王だった。暗闇に差し込んだ一筋の光に、クロノスの心臓は高鳴る。
「けれど、私は名実ともに『最高の女』になりましたから」
「…………え?」
その刹那、クロノスは再び絶望の淵へと突き落とされた。