※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(最高の女って)


 過去、婚約者に向けて己が発した言葉がフラッシュバックする。


(まさか……まさか…………!)


 呼吸を求め、ハクハクと口が動く。けれど、頭も身体も誰かに乗っ取られてしまったかの如く、思うように動いてくれない。


「もう二度とお目にかかることはないと、あなたとそうお約束しました。その約束は何としても守りませんと――――ねぇ、クロノス?」


 ドクン、とひと際強く心臓が鳴り響く。クロノスは思わず顔を上げた。


「リジー……」


 光り輝くブロンドに、深い緑色の瞳。彼の目の前には誰よりも気高く、誰よりも美しい、最高の女性――――元婚約者であるエリザベスが立っていた。


「あなたは国外に追放します。今度こそ――――もうお目にかかることはないでしょう」


 花のように可憐に微笑むその笑顔は、あの頃とちっとも変わっていない。けれど彼女の瞳には、悲しみの色が見えた。


(俺は間違っていたのか)


 自分は正しいことをしていると思っていた。家族のため、自分のため、正しい道を進んでいると信じて疑わなかった。エリザベスが今もこんなに悲しんでいたとは、気づきもしなかったのだ。
 クロノスはその場に膝をつき、愕然と項垂れることしかできなかった。


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