※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
****


「本当に、これで良かったのか?」


 徐にかけられた声に、エリザベスは振り返った。
 目の前には幼い頃からお世話になっていた伯爵家の一人息子、アーノルドが立っている。

 今回、エリザベスが女王として即位するにあたり、一番の協力者となってくれたのがこのアーノルドだった。今後側近として仕えてもらうし、執務室に自由に出入りする許可を与えている。


「あなたが一言命ずれば、クロノスは助けることが出来ただろうに」


 エリザベスは困ったように笑いながら小さく首を横に振った。


「そんなことしてたらキリがないもの。クロノスを助けるために他の人にも恩赦をかけなければならないわ」


 今回の断罪で、彼と似たような立場の者は他にもいた。クロノスを助けるならば同様に、彼等のことも助けなければならない。

 それに、クロノスに嫁いだ公爵令嬢や他の縁者が復讐を企てようと考える可能性もあるし、人間は簡単に嘘が吐ける生き物だ。誰がどの程度この件に関わっていたかを見極めることは難しいのだ。


「本当はクロノスに婚約破棄を言い渡された時点で、公爵が陰謀の首謀者だって分かっていたら良かったのでしょうね。そうしたら私は婚約破棄を止めていたかもしれないもの」


 窓の外に広がる王都を眺めながら、エリザベスは目を細めた。ぼんやりと揺れ動く小さな灯り。今頃クロノスはあの辺だろうか。ついついそんなことを考えてしまう。


< 422 / 528 >

この作品をシェア

pagetop