※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***
「婚約を解消しましょう」
ティアーシャが言う。彼女からの呼び出しに応じたエミールは、向かいの席で静かに息を呑んだ。
「本気で言っているのか?」
「ええ。これまで私のワガママのせいであなたを縛り付けていたこと、本当に申し訳なく思っています」
そう言ってティアーシャは頭を下げる。エミールは慌てて首を横に振った。
「……いや、悪いのは明らかに僕の方だ。キッカケがどうであれ、両家が納得の上婚約を結んでいるんだ。あんな態度を取るべきではなかった。今さらではあるけれど、本当に反省している」
一体どんな心境の変化だろう。エミールは後悔を滲ませながら、深々と頭を下げる。
「君の――――絵を見たんだ」
「……え?」
「先日、ディートリヒ様に呼び止められてね。君がどれだけ苦しんでいたか、悲しんでいたか知るべきだと言われた。頭を強くぶん殴られたような気分だったよ。本当に僕は、君のことを全く見ていなかったんだな」
そう言ってエミールは、分厚い紙の束をティアーシャに手渡す。
「ノア様……」
渡された紙に描かれているのは、どれも寂しそうな表情を浮かべたティアーシャだった。彼の目に映る自分はこんな表情をしていたのだろうか。ドレスやジュエリーで飾り立て、誰にも見せないようにしていた筈の自分の姿が、そこにありありと描かれている。ティアーシャの目頭がグッと熱くなった。
「今さらかもしれないが、やり直せないだろうか?」
エミールが言う。彼の瞳は、これまで頑なに避け続けていたティアーシャのことを真っ直ぐに見つめていた。
「彼女とは別れた。これからは君を幸せにしたい。どうか僕の手を取ってくれないだろうか?」
それは、ティアーシャがずっとずっと待ち望んでいた言葉だった。エミールに己を見てもらうこと、彼と共に幸せになることが、ティアーシャの望みだったのだが。
「私も――――あなたのことをきちんと見ていなかったみたい」
ティアーシャはそう言って朗らかに微笑む。悲しみも憂いも、それから、何の欲も無くなった彼女の笑みは、あまりにも美しく光り輝いていて。エミールは静かに息を呑んだ。
「ごめんなさい。本当の私を見て欲しい人が――――好きになって欲しい人が居るの」
「婚約を解消しましょう」
ティアーシャが言う。彼女からの呼び出しに応じたエミールは、向かいの席で静かに息を呑んだ。
「本気で言っているのか?」
「ええ。これまで私のワガママのせいであなたを縛り付けていたこと、本当に申し訳なく思っています」
そう言ってティアーシャは頭を下げる。エミールは慌てて首を横に振った。
「……いや、悪いのは明らかに僕の方だ。キッカケがどうであれ、両家が納得の上婚約を結んでいるんだ。あんな態度を取るべきではなかった。今さらではあるけれど、本当に反省している」
一体どんな心境の変化だろう。エミールは後悔を滲ませながら、深々と頭を下げる。
「君の――――絵を見たんだ」
「……え?」
「先日、ディートリヒ様に呼び止められてね。君がどれだけ苦しんでいたか、悲しんでいたか知るべきだと言われた。頭を強くぶん殴られたような気分だったよ。本当に僕は、君のことを全く見ていなかったんだな」
そう言ってエミールは、分厚い紙の束をティアーシャに手渡す。
「ノア様……」
渡された紙に描かれているのは、どれも寂しそうな表情を浮かべたティアーシャだった。彼の目に映る自分はこんな表情をしていたのだろうか。ドレスやジュエリーで飾り立て、誰にも見せないようにしていた筈の自分の姿が、そこにありありと描かれている。ティアーシャの目頭がグッと熱くなった。
「今さらかもしれないが、やり直せないだろうか?」
エミールが言う。彼の瞳は、これまで頑なに避け続けていたティアーシャのことを真っ直ぐに見つめていた。
「彼女とは別れた。これからは君を幸せにしたい。どうか僕の手を取ってくれないだろうか?」
それは、ティアーシャがずっとずっと待ち望んでいた言葉だった。エミールに己を見てもらうこと、彼と共に幸せになることが、ティアーシャの望みだったのだが。
「私も――――あなたのことをきちんと見ていなかったみたい」
ティアーシャはそう言って朗らかに微笑む。悲しみも憂いも、それから、何の欲も無くなった彼女の笑みは、あまりにも美しく光り輝いていて。エミールは静かに息を呑んだ。
「ごめんなさい。本当の私を見て欲しい人が――――好きになって欲しい人が居るの」