※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「私も……初めてお会いした時には、身体がおかしくなったんじゃないかと思いましたわ。この人は私の求めていた御方だって、身体が先に理解したのです。旦那様は私が成人するまでの間、じっと待ってくださっていたそうなのですが、確かにあの衝撃は、子どもの頃には受け入れられなかったのではないかと思いますの」


 ノナはほぅ、とため息を吐きながら、何度も頷く。


(なるほど……そういうことだったのですね)


 エーリはノナをとても大切にしてくれた。優しい言葉、真心のこもった贈り物、温かな笑みで、ノナを包み込んでくれる。それが本能に組み込まれた行為だというのなら、唐突に思えた誘拐劇にも納得が出来る。
 元々、ノナ自身は入内を望んでいたわけではないし、美しく優しいエーリに妻として愛された方がずっと幸せに決まっている。しかも、感情等と言う不安定なものが理由でないなら安心だ。人は簡単に嘘を吐くし、感情というものはいとも簡単に揺らぐ。


『ノナは俺が幸せにするよ』


 かつてノナに向かってそう言った元婚約者は、今や姉の夫だ。もう二度と会うことも無いけれど、ノナが深く傷ついたことには変わりない。


(だけど…………)

「私ね、旦那様に見つけていただけて良かったと、心からそう思うのです」


 その時、パロットが徐にそんなことを言った。ノナは居住まいを正しつつ、彼女のことをまじまじと見つめる。


「竜の寿命は500年。鳥としての私の寿命は長くて10年でございました。
もしもその10年の間に旦那様が私を見つけてくれなかったら――――旦那様は残りの生をたった一人で生きなければならなかったのです。あんなにも愛情深く、寂しがりやな旦那様が、たった一人きりで……そう思うと、運命の女神さまに感謝せねばならないなぁと。良かった、と思うのです」


 パロットはそう言って嬉しそうに手を合わせる。ノナは小さく目を見開きつつ、穏やかに微笑んだ。


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