※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(エーリ様)


 ノナは心の中でエーリを呼ぶ。何故だか、無性にエーリに会いたかった。目頭が熱く、酷く息苦しい。
 その時だった。


「きゃっ!」


 悲鳴とも歓声とも取れないベルの声音が聞こえてきた。視線の先を追うと、湖面に誰かの立ち姿が見える。それが誰なのか考えるまでもない。エーリだった。


「フィデル! 何だか身体がおかしいの! 身体中の血液が沸騰したみたいに熱い……! あの方が! あの方が欲しくて堪らないの!」


 そう言ってベルは、はぁはぁと喘ぎ、エーリのことを見つめている。


(お姉さま……? エーリ様は?)


 ノナの心臓がドクンドクンと嫌な音を立てて鳴る。ゆっくり、ゆっくりと湖面から顔を覗かせる。するとどうだろう。エーリの顔は真っ赤に染まり、苦し気に胸を押さえていた。その瞬間、ノナはハッキリと理解した。


(わたくしは、エーリ様の番ではない)


 それだけじゃない。本当はベルこそが、エーリの本能が求める相手だったのだ。


『本当にわたくしは、エーリ様の番なの?』


 パロットから『番』について聞いた時から抱いていた、えもいわれぬ違和感。けれど、言えば自分の居場所が無くなってしまいそうで、ずっと言葉にはしてこなかった。
 エーリからの求婚を未だ受け入れられないのも、これが理由だ。本当は間違って連れてこられただけではないか。自分は選ばれない子なのに、と。


(わたくしはまた、選ばれなかった……)


 運命ならば或いは――――そんなことを考えていた己の愚かさに自嘲してしまう。本当は勘違いで連れてこられただけなのに。愛されて等いないのに……そう思うと、ずっと堪えていた涙が溢れ出した。


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