※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 学園が休みの日には、エーファは城に通って妃教育を受ける。


「失礼いたします、殿下」

「ああ、終わった?」


 その日のカリキュラムを終えると、エーファは俺の部屋を訪れてくれる。それが十年前、婚約を結んで以降破られたことのない、僕達の約束だった。


「はい。お待たせしてしまいましたか?」


 エーファはそう言って美しく微笑む。


「いいや、全く待っていない」


 答えつつ、僕は小さくため息を吐いた。

 本当は、すごく待ち遠しかった。

 エーファは既に未来の王妃に相応しい素養を身に着けているし、本当は妃教育なんてもう必要ない。だけど、こうでもしないとエーファは自ら僕に会いに来てくれない。だから、未だに妃教育が終了していないと言って城に呼び続けていた。

 僕からすれば、エーファが鳴らすノックの音さえ愛おしく、彼女が登城した日には一日中ソワソワとして落ち着かない。そういう時は、一人部屋の中をウロウロと彷徨ったり、耳を澄ませつつ、本を読みながら過ごしている。公務を片付けながら待つことも多い。



「シェイマス様の言う通りです。本当に、全然待っていませんよ?」


 けれど、今日に限っては、いつもと違う待ち方をしていた。


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