※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「そんな馬鹿な……」

「だが、それが事実だ。
折よくミランダから『おまえの妃になりたい』と申し出があった。だから私は、エーファとの婚約を破棄し、ミランダと婚約をさせるのが最善だと判断した」

「しかし……エーファが妃に相応しくないだなんて、そんなこと、ありえません! エーファほど素晴らしい女性は居ない! 父上だってご存じのはずです!」


 あまりにも荒唐無稽な話に、僕は思わず笑い声をあげた。


「エーファは妃教育の全てで優秀な成績を修めている! 講師たちのお墨付きだ! 
第一、大事なのは能力だけじゃない。エーファなら国民に寄り添える、心優しい妃になってくれます! 彼女以外に務まる筈がありません!
大体、王妃としての素養が無かったとしても、僕はエーファが良いのです! エーファ以外にはあり合えません!」


 言いながら僕はエーファの元へ駆け寄り、彼女の手を握る。細く温かな手のひらが震えていて、目頭がグッと熱くなった。


「殿下」


 エーファがそっと僕を呼ぶ。
 エーファの声を聴くだけで、胸を掻きむしりたくなるような愛しさと切なさに苛まれる。今すぐ僕の腕の中に閉じ込めたいし、喉から手が出るほど彼女が欲しくて堪らない。


「エーファ! エーファからも何とか言ってくれ! 不安なことがあるなら、僕が何とかする! 君が自信を持てるように、僕が……」

「殿下、そうではないのです」


 エーファはそう言って首を横に振る。彼女の美しい瞳に、薄っすらと涙が溜まっていた。時が止まってしまったかの如く、僕は目を奪われる。心臓が音を立てて軋んだ。


「わたくしはどうしても……あなたの妃にはなることはできません。
わたくしはずっと、醜い嫉妬に駆られてきました。劣等感に苛まれ、人にはとても聞かせられないような黒い感情に支配されて……そんなわたくしでは、妃には相応しくないのです」

「…………嫉妬?」


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