※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「久しいな、トミー。会いたかったぞ? この俺が何度もお前を呼びつけているというのに、それを無視し続けるとは――――一体どういう了見だ?」

「ダミアンさま! 無視だなんて、そんなまさか! そんなつもりは……」

「そうか? お前の使用人たちからは『主人は今領地を出ている』『忙しい』『不在だ』と返事をもらっていたのだがな? そうか……お前ではなく使用人たちが嘘を吐いたということか」

「え、ええ! お恥ずかしながら、教育が行き届いていないようで……」


 ダミアンはフッと嘲笑し、空中に小さな魔法陣を描く。すると、そこには街での生活を活き活きと謳歌するトミーの姿が映し出された。おまけに彼はダミアンの悪口まで吹聴している。


(阿呆め……)


 そりゃあ、こんな規格外なことが可能なのは、世界広しと言えど、ダミアンぐらいかもしれないけど、トミーはトミーで墓穴掘りすぎ。せめて敵に回さないとか、嘘を吐かないとか、色々やりようがあっただろうに。


 トミーの顔は今や血の気が失せて、真っ青に染まってしまっていた。放心状態。魂が抜け落ちている――――そう表現すると一番しっくり来る。

 しかし、さすがは悪魔。命を取るよりも絶望を味わわせるほうがずっとずっと楽しいのだろう……ダミアンはそういう表情を浮かべていた。

 かく言うあたしも、興奮で胸が高鳴っているのだから、大分異常だ。ほんの数日、悪魔と一緒に生活しただけで性格が変わってしまったのだろうか? 


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