※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 けれど、それから三ヶ月。
 ザックは未だクロシェットを迎えに来ていない。


『一体あいつは何をしているんだ?』


 苛立ちを隠さないウルやフェニを前に、クロシェットは表情を曇らせる。


『ここを出よう。俺たちとともに、あいつに会いに行こう』


 ウルの提案に、クロシェットは躊躇いつつも、小さく首を横に振った。


「ダメよ。ザックさまが『迎えに行く』って約束してくれたんだもの。ここで彼を待っていなくちゃ」


 約束を違えるわけにはいかない。
 彼を失望させるわけにはいかない。

 待つと決めたなら……約束したなら、それを破るわけにはいかない。


 クロシェットはザックを信じていた。
 彼の言葉を――――想いを信じていた。


 けれど、待てど暮らせどザックは来ない。
 二年間、ザックの勝利を待ち続けたあの日々よりも、今のほうが余程、時が経つのが遅く感じられる。


 今日だろうか。
 明日だろうか。

 五日後。

 きっと一週間後には――――。
 一ヶ月後――――――。
 三ヶ月も経てば――――――――。


 クロシェットの心が日に日に疲弊していく。


(わたし――――ザックさまに忘れられてしまったの?)


 本当はこんなこと、考えたくない。
 けれど、日が経つにつれ、疑念は強くなっていく。


(わたし、本当は要らなかった?)


 ザックにとってクロシェットは手駒の一つでしかなくて。
 数合わせのために旅へと誘われただけで。
 最初から、迎えに来る気なんてなかったのかもしれない。


 ザックを信じたい。
 けれど、信じられない。
 どうか間違いであってほしい――――


「ここを出ましょう。わたしがザックさまを迎えに行くわ」


 言いながら、クロシェットの胸が強く軋む。
 ウルとフェニは顔を見合わせつつ、彼女のあとに続いた。


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