※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(ザック様が結婚? ……姫様と?)


 馬鹿げている。
 そんなことはあり得ない。
 ある筈がない。


 だって彼は、クロシェットと結婚をする。


 そう、確かに約束したのだ。
 別の誰かと結婚するだなんて、そんな――――。


「泉の魔獣を全部やっつけてくれたのも勇者様なんでしょう? 本当に素晴らしいお方だわ」


 ――――違う。
 あの泉を護っていた人間はザックではない。
 他でもないクロシェットだ。

 ずっと順風満帆だったわけじゃない。
 彼女は二年もの間、ずっと身を挺して泉の魔獣と闘ってきた。

 けれど、いつの間にか街の住人にはザックの偉業ということになっているらしい。クロシェットは目の前が真っ暗になった。


「この街の住人だけじゃない。国中のみんなが彼に感謝し、崇拝しているわ。だって魔王を倒したんだもの。当然の結果よね」


 楽しげな笑い声がだんだんと遠ざかっていく。
 クロシェットは、しばし呆然とその場に立ち尽くした。


『クロシェット……』


 ウルたちがクロシェットを覗き込む。とてもじゃないが、掛ける言葉が見つからなかった。

 彼等自身、底知れぬ怒りに震えており、今すぐザックへ報復してやりたいほど。
 けれど、クロシェットが望まないと分かっているから、動くことができずにいる。


「――――行きましょう」


 クロシェットが言う。
 おぼつかない足取りで、彼女はゆっくりと歩き出す。


(きっと、なにかの間違いよ)


 ザックはきっと、クロシェットのことを待っている。
 何か、迎えにこれなかった理由が存在するのだろう。
 本当はクロシェットと同じように、会いたがっているに違いない。

 そう思わないと、自分を保っていられなかった。



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