※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 けれど、どこへ行っても、誰に聞いても、皆が口を揃えて言う。


 勇者様が姫様と結婚をするんだって――――。


 国中がお祝いモードに包まれる中、クロシェットの心は沈んでいく。


 そんな時、彼女は王都で婚約披露パレードが開かれることを耳にした。


(嘘だよね?)


 沿道に並びながら、クロシェットは静かに自問する。

 これから現れる人は――勇者は――ザックではない。
 絶対に、なにかの間違いだ――――そう思ったその時、遠くの方から歓声が湧き上がった。

 目を瞑り、蹄の音に耳を澄ませる。


(違う)


 彼じゃない。
 ザックじゃない。
 ザックであるはずがない。

 歓声が耳を突く。

 ゆっくりと目を開けたその時、クロシェットは大きく泣き崩れた。


「あぁっ……」


 美しい姫君の隣で、一人の男性が満面の笑みを振りまいている。

 太陽のように煌めく金の髪、空色の瞳。
 見間違いようがない。
 彼は二年半もの間、クロシェットが恋い焦がれた男性――――ザックだった。


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