※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
33.遅くなってごめん!(3)
***
セデルとの生活は、温かく、優しさに満ちていた。
清潔で美しい洋服に、温かい食事。夜はふかふかのベッドで眠ることができる。
緑豊かな領地の中、花や果物、動物たちを見て回り、夜は仕事を終えたセデルに文字を教えてもらう。
当たり前の日常。当たり前の幸せ。
それらが失われてから久しく、クロシェットは涙が出るほど幸福だった。
セデルはよく魔獣討伐に向かったが、決して、クロシェットを利用しようとしない。彼女が特別な力を持っていると知っていて、頼ろうとすることもない。
「当然だよ。君がどれほど辛い思いをしてきたか、俺は知っている。君が聖女だと知れ渡れば、人々は君を特別な存在として崇めるだろう。けれど、その分だけ君に頼ってしまうに違いない。
俺はもう二度と、クロシェットに辛い思いをさせたくないんだ」
真剣な眼差しで見つめられ、クロシェットは思わず頬を染める。
穏やかな日々であるのに――――セデルと一緒に居ると、クロシェットの胸はいつもトクンと甘く疼く。美しい彼の瞳を見る度に、身体が熱を帯びていくのを感じていた。
「それに、俺だって男だ。どうせなら自分が護る側に回りたい。好きな人のことなら、尚更」
セデルがクロシェットの手を握る。
クロシェットはしばし逡巡し、息を呑み、やがて顔を真っ赤に染める。
(好きな人って、わたし……⁉)
誠実な彼が、冗談でこんなことを口にするとは考えがたい。クロシェットの鼓動が勢いよく跳ねた。
「今すぐにとは言わない。考えてみてくれないか? 俺と生きる未来を。俺に君を護らせてほしい」
瞳を、心を真っ直ぐに射抜かれ、クロシェットはドギマギしながら小さく頷く。
セデルとの生活は、温かく、優しさに満ちていた。
清潔で美しい洋服に、温かい食事。夜はふかふかのベッドで眠ることができる。
緑豊かな領地の中、花や果物、動物たちを見て回り、夜は仕事を終えたセデルに文字を教えてもらう。
当たり前の日常。当たり前の幸せ。
それらが失われてから久しく、クロシェットは涙が出るほど幸福だった。
セデルはよく魔獣討伐に向かったが、決して、クロシェットを利用しようとしない。彼女が特別な力を持っていると知っていて、頼ろうとすることもない。
「当然だよ。君がどれほど辛い思いをしてきたか、俺は知っている。君が聖女だと知れ渡れば、人々は君を特別な存在として崇めるだろう。けれど、その分だけ君に頼ってしまうに違いない。
俺はもう二度と、クロシェットに辛い思いをさせたくないんだ」
真剣な眼差しで見つめられ、クロシェットは思わず頬を染める。
穏やかな日々であるのに――――セデルと一緒に居ると、クロシェットの胸はいつもトクンと甘く疼く。美しい彼の瞳を見る度に、身体が熱を帯びていくのを感じていた。
「それに、俺だって男だ。どうせなら自分が護る側に回りたい。好きな人のことなら、尚更」
セデルがクロシェットの手を握る。
クロシェットはしばし逡巡し、息を呑み、やがて顔を真っ赤に染める。
(好きな人って、わたし……⁉)
誠実な彼が、冗談でこんなことを口にするとは考えがたい。クロシェットの鼓動が勢いよく跳ねた。
「今すぐにとは言わない。考えてみてくれないか? 俺と生きる未来を。俺に君を護らせてほしい」
瞳を、心を真っ直ぐに射抜かれ、クロシェットはドギマギしながら小さく頷く。