※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「ですからもう、わたくしのことは忘れてください。どうか、ロジーナを幸せにして」


 グラディアの切実な声が響いた。聴いているこちらの方が、胸が張り裂けそうになる。クリストフは首を大きく横に振り、グラディアの手を握った。


「僕はロジーナではなく、グラディアを幸せにしたいんだ! 忘れるなんて、できるはずがないだろう!」


 クリストフの言葉に、グラディアは今にも泣きだしそうな表情でエーヴァルトを見つめてきた。感情の波に吞まれてしまいそうなのを、必死に堪えているらしい。


(そのまま呑まれてしまえば良いのに)


 そう思いつつ、エーヴァルトはそっと身を乗り出す。


「――――失礼。クリストフ様はロジーナ様との婚約が決まったとお聞きしました。それなのに、俺のグラディアを口説くのは止めていただきたい」


 先程ここで行われた二人の会話を、エーヴァルトは聴いていないことになっている。状況を整理するためにも、エーヴァルトは再度、そう口にした。慇懃な口調はグラディアからのオーダーだ。見た目とのギャップに、クリストフが少しだけたじろいだのが分かった。


「それは……父上が勝手にそう言っているだけだ! 僕はグラディアと結婚するつもりで、ずっと……ずっと…………」

「それは無理なお話ですわ。クリストフとわたくしでは家格が釣り合いませんもの」


 答えるグラディアの声は震えていた。エーヴァルトからは覗えないものの、今にも泣きそうな表情をしているに違いない。何だかなぁ、と思いつつ、エーヴァルトは眉間に皺を寄せた。


「そんな時代錯誤なこと、僕はちっとも気にしないよ。それに、それを言うならこの男、平民だろう? それこそグラディアとは釣り合わないよ」


 クリストフはそう言って、エーヴァルトのことを恨めし気に睨んだ。エーヴァルトはふぅ、とため息を吐きつつ、グラディアを自分の方へ抱き寄せる。グラディアはフルフルと首を横に振りつつ顔を上げた。


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