※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***
彼がわたしの家を訪れたのは、それから数日後のことだった。
「リーザ! 一体、どういうことだ!」
来客対応中のわたしに構うことなく、ワーナーは目を吊り上げ、声を荒げる。
「どういうことだ、とは?」
「――――おまえのとこから仕入れていた糸が手に入らなくなったんだ! それだけじゃない! 羊毛や革……仕入れていた材料の殆どの値段が高騰していて、とてもじゃないが手が出せない!」
ワーナーは顔を真っ赤に染め、ブルブルと身体を震わせていた。余程慌てて来たのだろう。いつも隙なく整えられた髪型は乱れに乱れ、服もヨレヨレになっている。
「だから言ったじゃありませんか」
そう口にしつつ、自然ため息が漏れる。わたしの物言いに憤慨したらしく、ワーナーは身を乗り出した。
「だから言った⁉ 僕は何も聞いていない! 不当な値上げに抗議するどころか、父上は僕が悪いと――――勘当するって言いだすし! 何が何やら……」
「ふふっ」
わたしは思わず声を上げて笑ってしまった。この期に及んで事態を理解できていないあたり、やっぱりワーナーはとんでもない不良債権だった。痛手なしに手放せたことは幸運以外の何物でもない。
「何を笑っている! この……」
「やめろよ」
わたしに掴みかかろうとしたワーナーを理性的な声音が静かに制する。
「だ、誰だ、おまえは」
初めからわたしの向かいに座っていたというのに、ワーナーは彼に気づいていなかったらしい。狼狽えながら、数歩後退った。
「ワーナー、こちらはハンティントン伯爵よ。まだ若いけど、ご自分で事業を幾つも手がけていらっしゃるすごい方なの」
(あなたとは違ってね)
心の中でそっと付け加えながら、わたしは穏やかな笑みを浮かべる。
伯爵は柔和で温厚、上品な立ち居振る舞いが印象的な好青年だ。粗野で野性的なワーナーとは正反対。何より、実業家としての実績が天と地ほど違った。
「ジュード・ハンティントンです。自己紹介が遅くなりました――――いきなり話に割り入られたものですから」
「あっ……いや、その。気づかなかったもので……」
格上の伯爵相手では、さすがのワーナーも下手に出ざるを得ないらしい。顔を真っ赤に染めて縮こまっていた。
彼がわたしの家を訪れたのは、それから数日後のことだった。
「リーザ! 一体、どういうことだ!」
来客対応中のわたしに構うことなく、ワーナーは目を吊り上げ、声を荒げる。
「どういうことだ、とは?」
「――――おまえのとこから仕入れていた糸が手に入らなくなったんだ! それだけじゃない! 羊毛や革……仕入れていた材料の殆どの値段が高騰していて、とてもじゃないが手が出せない!」
ワーナーは顔を真っ赤に染め、ブルブルと身体を震わせていた。余程慌てて来たのだろう。いつも隙なく整えられた髪型は乱れに乱れ、服もヨレヨレになっている。
「だから言ったじゃありませんか」
そう口にしつつ、自然ため息が漏れる。わたしの物言いに憤慨したらしく、ワーナーは身を乗り出した。
「だから言った⁉ 僕は何も聞いていない! 不当な値上げに抗議するどころか、父上は僕が悪いと――――勘当するって言いだすし! 何が何やら……」
「ふふっ」
わたしは思わず声を上げて笑ってしまった。この期に及んで事態を理解できていないあたり、やっぱりワーナーはとんでもない不良債権だった。痛手なしに手放せたことは幸運以外の何物でもない。
「何を笑っている! この……」
「やめろよ」
わたしに掴みかかろうとしたワーナーを理性的な声音が静かに制する。
「だ、誰だ、おまえは」
初めからわたしの向かいに座っていたというのに、ワーナーは彼に気づいていなかったらしい。狼狽えながら、数歩後退った。
「ワーナー、こちらはハンティントン伯爵よ。まだ若いけど、ご自分で事業を幾つも手がけていらっしゃるすごい方なの」
(あなたとは違ってね)
心の中でそっと付け加えながら、わたしは穏やかな笑みを浮かべる。
伯爵は柔和で温厚、上品な立ち居振る舞いが印象的な好青年だ。粗野で野性的なワーナーとは正反対。何より、実業家としての実績が天と地ほど違った。
「ジュード・ハンティントンです。自己紹介が遅くなりました――――いきなり話に割り入られたものですから」
「あっ……いや、その。気づかなかったもので……」
格上の伯爵相手では、さすがのワーナーも下手に出ざるを得ないらしい。顔を真っ赤に染めて縮こまっていた。