※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「そんなことはございません。エーヴァルト様は魔術科のナンバーワンですもの。将来は必ず爵位を授かる御方ですわ。名ばかりの貴族であるわたくしよりも、エーヴァルト様の方がずっと優れていらっしゃいますもの」


 グラディアの返答に、エーヴァルトはなるほどな、と思った。何故グラディアが自分を選んだのか、エーヴァルトはその理由をずっと考えていたのだ。

 第一に、恋人の振りをする男性は、彼女と同じ貴族が相手では難しい。例え振りでも相手の今後を左右する可能性が高いし、クリストフに対する信憑性が薄い。その点、エーヴァルトは幾人も恋人がいるから、その内の一人だと公言したところで、傷つくのはグラディアの名誉だけだ。クリストフとロジーナの婚約が成立した頃合いを見計らって『別れた』と言えば良いだけなので、事後処理も楽である。

 第二に、エーヴァルトの身分だ。エーヴァルトは今は平民だが、優秀な魔術師だ。この国の王は有能な魔術師たちに爵位を与え、彼等を側近くに置こうとする。国の護りを強固にするため、ひいては魔術師たちによる反乱を防ぐためだ。エーヴァルトにも十分、爵位を狙えるだけの実力があった。グラディアが『そこを見越した』と言えば説得力が少しは増すし、言い訳が立つ。少なくともグラディアは、そう考えたようだ。


「とにかく、わたくしはエーヴァルト様の恋人なのです。クリストフはロジーナと婚約を結んでください」


 グラディアはキッパリとそう言い放った。クリストフは瞳を潤ませ、グラディアへと縋りつく。


「そんな……ダメだよ、グラディア。僕が好きなのはロジーナじゃない。グラディアなんだ。それに、さっきも言ったけど、この男には君以外に何人も恋人がいるんだよ? そんな男がグラディアを幸せにできるわけが――――いや、元より幸せにする気だってない筈だ。君は遊ばれているんだよ」


 グラディアはエーヴァルトを見上げながら、表情を曇らせた。ここで『遊ばれたいんです』とでも言えば、火に油を注ぐようなもの。クリストフはグラディアの目を覚まさせようと、躍起になるだろう。
 けれど、『遊びじゃない』と主張するのもどこか嘘くさい。そもそもが嘘で塗り固められた関係だし、当然なのだが。


< 7 / 528 >

この作品をシェア

pagetop