※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 わたしがここで侍女として働いている目的。それは、殿下の決定的な瞬間――――恋愛事情をスクープするためだ。


 わたしがお仕えすることになったアスター殿下は御年18歳。この国の第一王子で、先日、先代国王が崩御したことをキッカケに、王太子になられたばかりだ。

 見目麗しく、文武両道。公務も積極的にこなしていらっしゃるということもあって、国民からの人気は高い。けれど、彼の性格や私生活は未だヴェールに包まれている。

 それより何より国民が気になっているのは、彼の『結婚問題』だった。18歳になっても婚約者がいないばかりか、浮いた噂一つない。そんな殿下に国民は興味津々だ。

 彼の婚約をスクープすれば、雑誌の売り上げは飛躍的に伸びる。だからわたしは、殿下の側近くで様子を伺うため、こうして侍女になったのである。


(くそぅ……ここからじゃ何を話してるかちっとも聴こえない)


 先程から先輩の仕事を取り上げては、会場内を右往左往しているものの、中々殿下に近づくことができない。令嬢方は入れ代わり立ち代わり殿下と会話をしているけれど、殿下が誰に対して好感を抱いているのか、見ただけでは分からないのだ。


 だけど、運だけは物凄く良いと思う。なにせ、勤務初日に殿下の婚約者達を知る機会に恵まれたんだもの。
 このお茶会のことは非公表だし、きっと他社は候補者たちの情報すら手に入れることができない。参加者たちの顔は全部念写したし、父に送れば、誰が候補者なのか洗いだすことは簡単だ。今後は彼女たちの周囲に気を配っていれば、事をずっと優位に進めることが出来る。


(とはいえ、もう少し狙いは絞っておきたいなぁ。殿下のご尊顔はたくさん『念写』できたけど)


 それだけじゃ意味がない――――っていうか使いようがない。大事なのは殿下と未来の婚約者のツーショットであり、情報だ。今後誰がその座を射止めるかは分からないけど、闇雲に当りを付けるのは得策とは言えないだろう。


(うーーん、どうしたものか……)

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