※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「それで、マイリーはどうして侍女を志した? 見たところ、君も貴族の令嬢だろう?」


 ホーク様はそう言って軽く身を乗り出す。まるで採用面接をもう一度受け直しているかのような気分だ。


「行儀見習いと、将来の縁に繋がれば、と思いまして」


 そう言ってわたしは恭しく頭を垂れる。
 大丈夫、この受け答えは何十・何百回と練習を重ねてきた。簡単に尻尾を出したりしない。割と本気で命がけだし!


「……まぁ、ありきたりな理由だな」


 ホーク様はそう言って、嘲るような笑みを見せる。


(これは煽られているのだろうか)


 まるで圧迫面接のようだなんて思いつつ、心の中でむっと唇を尖らせる。だけどその時、ホーク様の肩がポン、と叩かれた。


「こら、うちの新人をそんな風に苛めないでよ。折角欠員が埋まった所なんだから」


 穏やかで優しく、明るい声音。見ればメインターゲット、アスター殿下がわたしに向かって微笑みかけていた。


「君がマイリーだね。俺はアスター。これからよろしくね」

「よっ、よろしくお願いいたします」


 正直言って、これは想定外の展開だった。殿下が新人侍女の名前を覚えているとは思っていなかったし、当分声を掛けられることは無いと思っていた。しばらくは只管、遠巻きに殿下を観察しようと思っていたのだけど。


「嬉しいなぁ。年が近い子ってあんまり採用されないから。良かったら時々、俺の話し相手になってほしいんだけど」

「……はい。殿下がお望みとあらば」


 本気でも、社交辞令であっても、わたしにとっては好都合。ニコリと微笑みつつ、わたしは恭しく頭を垂れる。


「それじゃあ、またね、マイリー」


 それから殿下はホーク様を伴って、令嬢方の元へと戻っていった。


***


 その日、自室に戻ったわたしは、すぐに『念写』したばかりの光景を一つ一つ、紙に現像していった。


「うーーん、中々手強そうな感じだなぁ」


 改めて客観的に画を見れば、殿下はどの令嬢も特別扱いはせず、全員と平等に接している様子が伺える。現段階でこの中の一人を『有力候補』と定め、張り込むことは難しそうだ。


(さすがに今日は、疲れた)


 炎天下の中、先輩たちから仕事を奪ってまで給仕に勤しんだ影響が如実に出ている。随分と体力を消耗してしまったようだ。


(また明日、頑張ろう)


 ふぅ、とため息を吐きつつ、わたしはベッドに倒れ込んだ。


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