※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 二日目。
 侍女の朝はめちゃくちゃ早い。


「お湯は少し冷まさなきゃいけないから、今のうちに盆に移しておいて。お持ちする間に丁度良い温度になるはずだから」

「はい、わかりました」


 必死にメモを取りつつ、言われた通りの指示をこなす。殿下の起床時間が迫っているらしく、現場は鬼気迫っていた。


「殿下は優しいけど、時間を物凄く大切になさる御方だから、遅刻は厳禁。無駄は極力排除して、テキパキ動くようにしてね」


 会話をしながら、先輩はわたしの腕に数枚のタオルを載せていく。最早一つ一つ立ち止まって確認する暇は無いらしく、実際に動きながら仕事を覚えていくしかない。
 おまけにわたしは、殿下の私生活を暴くという密命を抱えているから、前途は多難だ。


「おはようございます、殿下」


 詰め所では、鬼気迫った様相の先輩たちだったが、殿下の寝所では一転。ものすごく上品で落ち着いた佇まいに早変わりしていた。


(プロだな、皆)


 わたしは感心しつつ、先輩たちと同じようにキリリと居住まいを整える。殿下は眠そうに目を細めつつ、「おはよう」なんて口にして笑っている。


(おわぁ……美人の寝起きって心臓に悪いんだなぁ)


 こそこそと殿下の寝起きを念写しつつ、心臓がドキドキと鳴り響く。

 少し寝ぐせのついた金髪に、覚醒しきっていないあどけない表情。白い肌に薔薇色の頬がとても映える。殿下の隣に寝ている人間はいないのに、ついつい昨夜の名残的な何かを勘繰りたくなるセクシーさがそこにはあった。


(こんな画、とても世に出せそうにないなぁ)


 それでも念写してしまうのは、記者の性というもの。今後これがどんな形で記事に活きるか分からないし、ね。


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