※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「あぁ、マイリーも来ているんだね」


 その時、殿下はわたしに向かって声を掛けた。思わぬことに驚きつつ、わたしは急いで殿下にタオルを差し出す。


「おはようございます、殿下」

「うん、おはよう。昨日はよく眠れた? 初日にあれだけ頑張ったんだし、疲れただろう?」


 殿下はそう言って穏やかに笑う。先輩たちは何食わぬ顔をしてそれぞれの仕事を続けているが、それぞれしっかりと聞き耳を立てている。下手な発言はできそうにない。


「……えっと」

「俺が許したんだ。正直に言って良いんだよ」


 殿下はそう言ってタオルからチラリと顔を見せる。楽し気な横顔に、何だか胸がキュンとした。


「昨日は少し、疲れました」

「うん。お疲れ様。昨日は正直、俺も疲れた」


 先輩侍女たちが殿下の動きに合わせて、動き回る。次は着替えに移るらしい。洗面道具を片付けながら、わたしは先輩たちの動きを観察した。

 殿下は侍女たちのされるがまま。寝間着を剥がれ、新しい下着を身に着けていく。


(うわぁぁあっ)


 その様子は、わたしみたいな若輩者には目に毒だった。

 朝日に照らされた端正な肉体。剥き出しになったのど仏や引き締まった腹筋、逞しい腕にゴクリと喉が鳴る。


(いやいや無理! もう、無理!)


 この辺りで堪らなくなって、わたしはクルリと後ろを向いた。直視に堪えない。っていうか例え画であったとしても、見れる気がしなかった。平然としていられる先輩たちが不思議でならない。


(今度から朝のシフトは外してもらおうかな)


 うら若き乙女に、殿下のお着替えミッションは荷が重すぎる。こっそりとため息を吐きつつ、わたしはバクバク鳴り響く心臓を宥めた。


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