※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 七十六日目。


「王妃様が?」

「ええ。マイリーをお呼びだそうよ」


 侍女頭からそんなことを言われたわたしは、生きた心地がしないまま、ガーデンテラスへと連れ出されていた。

 お仕着せを剥がれ、身体を磨き上げられ、どこからか持ち込まれた豪奢なドレスに着替えさせられ、お化粧を施されるというフルセットのおまけ付き。気が重いどころの話ではない。


(王妃様は当然お怒りよね)


 殿下が全ての事情を話していらっしゃるかは分からないけど、自分に都合よく物事を考えるのはとても危険だ。めちゃくちゃに怒られる前提で謁見に挑んだ。



「まぁ、あなたがマイリーなのね」


 けれど、わたしの予想に反して、王妃様はとても好意的だった。呆気にとられつつ、必死に挨拶を返す。


「汚職事件の件では、夫と息子が世話になりました」


 王妃様はそう言って、凛とした表情で笑った。さすがは殿下のお母様。神々しいオーラが漂っているし、何だかこう、逆らえない空気がある。


(汚職事件にわたしが関わっているのをご存じってことは……)


 当然、わたしが侍女になった理由も知っているはずだ。普通の侍女は、王子の後を付けたりしない。胃のあたりがキリキリと痛んだ。


「どう? その後、うちの息子の取材は進んでる?」

「……へ?」


 すると、王妃様は身を乗り出し、瞳を輝かせた。その表情は若々しく、好奇心に満ち溢れている。


「わたくし楽しみにしているのよ? 先日のお忍びの記事も良かったし、きっと、とっても素敵な記事になるわ!」

「はぁ……えっと」


 王妃様はその後も、殿下にまつわる色んな話をしてくれた。その表情は終始楽しそうだし、大層好意的で。

 ついでとばかりに殿下の念写を頼まれたので、その場で幾つかプレゼントをした所、ビックリするぐらい喜ばれた。


(殿下のお母さまは規格外の御方だった)


 また一つ、わたしの取材記録が増えた。


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