聖なる夜は我儘なプリンセスと

聖なる夜は我儘なプリンセスと

「寒っ……」

11月までは、今年も暖冬なだけあって、日中は、汗ばむような、暖かい日が続いていたが、さすがに12月に入ってからは、コートもマフラーも手放せない。

僕は、年季の入った濃紺のマフラーをビジネスバッグから取り出すと、従業員出入り口で誰も居ないか、キョロキョロと確認してから巻き付けた。

美弥(みや)は、僕の高2の誕生日にマフラーをプレゼントしたことなんてとっくに忘れているんだろう。そして、未だにそのマフラーを大事に持っていて、こうして冬になれば巻いていることを、僕は誰にも話したことはない。

「……いい加減、気持ちに整理つけなきゃな」

勿論、美弥を強引に手に入れようとした、あの日以降、美弥に触れることもなく、美弥と僕の関係は、ただのチームの上司と部下だ。

美弥も仕事以外の話を僕にすることもなく、僕はそれで良かった。事務所に(はやて)先輩が、毎晩のように迎えにくると、美弥は、恥ずかしそうにしながらも、とても幸せそうに笑うから。

美弥が、幸せならそれでいい。

それに、あの颯先輩が、手を出すのを躊躇う程に、美弥を大切にしていたのを知った時、僕は、颯先輩に完敗したと思った。

「はぁーあ……」

誰にも聞かれない小さなため息を吐きながら、ゆっくりと駅に向かって歩き出す。
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