聖なる夜は我儘なプリンセスと
大通りに面した道路を歩きながら、行き交うカップルに、自然と目がいく。

僕も美弥とクリスマスを過ごせたらどんなに良かっただろうか。 

(はぁ……あれ、僕って意外と女々しかったんだな)


千歳(ちとせ)待って」

ふいに後ろから名前を呼ばれて、振り返れば、同僚であり、同期の棚田実花子(たなだみかこ)が、グレーのコートから片手を出すと、手を挙げた。

ピンヒールを鳴らしながら、少し駆け足で僕の隣に並ぶ。

「ね、付き合ってよ」

勿論、実花子の言ってる、『付き合ってよ』は、交際のことではなく、僕の行きつけの焼き鳥屋『オリオン』のことだ。

「僕じゃなくても、実花子なら、付き合ってくれる男なんて、いくらでも居るでしょ?」

「まあね、でもその男達と食事に行けば、もれなく食後のセックスがついてくる」

「僕だと安心って訳?」

「千歳は、未だにあの子に未練タラタラだし、何より、私の事を抱く気がない」

「あっそ。でも僕も男だから、抱こうと思えば誰でも抱けるけど?」

「どうかしら?意外と千歳は一途だから」

実花子は、束ねていた髪留めを外すと長い髪の毛を耳にかけた。女の子特有の甘い匂いが鼻を掠める。

「意外とね……」

自嘲気味に吐き出したため息に、実花子がクスッと笑った。

(美弥も、いい匂いだったな……)

って、本当僕は何考えてんだろう。

小さく頭を振った僕を眺めながら、実花子が、また笑った。

僕達は、駅前にある地鶏焼き鳥専門店『オリオン』の暖簾をくぐると、僕はいつものように、1番隅のカウンターに腰を下ろす。
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