聖なる夜は我儘なプリンセスと
実花子のモモのタレを食べる手が止まる。

「颯先輩から、実花子との結婚生活が、考えられなかったから、別れよって言われたんでしょ?」

「誰から聞いたのよ?」

「実花子。てゆうか、前回泣きながら僕に愚痴ってたの覚えてないんだ?」

「覚えてないっ、千歳のばか」

実花子は、食べかけのモモの串と僕を交互に睨みながら、二杯目のビールを飲み干した。

「その感じじゃあ、颯先輩には、馬鹿なんて言ったことないんだろね」

実花子が、食べ終わったモモの串を串立てに入れる。

「……颯に……嫌われたくなかったから。仕事の時は、有能な秘書で、二人だけの時は、聞き分けのいい、理想の恋人で居たかったの」 

「理想ねー……。それって男からしたら、めちゃくちゃ助かるけど、結局、実花子がしんどくなるじゃん」

僕は、あの颯先輩が、実花子と付き合うと聞いた時は驚いた。

仕事のパートナーである秘書の実花子と付き合うということは、別れる前提というよりも結婚前提だと思ったからだ。それまでの颯先輩の女遊びは酷く、1ヶ月もてばいい方で、その日限りの身体の関係だけの女の子も珍しくなかった。
< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop