聖なる夜は我儘なプリンセスと
「颯先輩も居心地良かったから、一年も付き合ったんだと思うけどさ、付き合ってて、気づいたんじゃない?実花子が、無理してるって」

実花子は、つくねを黙々と食べている。

「聞いてる?」

「聞こえてるわよ、ばか」

僕は、小さなため息と共に、ネクタイを緩めた。

「大将ー、あったかいお茶二つください」

「千歳!私、まだ飲むからっ」

実花子が、追加のビールを頼もうとして、挙げかけた掌を、僕は、左手で掴んだ。

「だめ、終わり」

「やだっ」

「だめだよ。この酔っ払い」

見れば、実花子の切長の瞳は、僕を睨みながらも、少しだけ閉じそうになってきている。実花子は、空いた食器を下げられて、広くなったカウンターに肘をつくと、睫毛を臥せて、小さくつぶやいた。

「……すごく好きだったの。颯が……だから、いつも頑張ったの。仕事も恋も……」

「うん」

「……もう恋なんてしない。てゆうかできない……颯しか好きになれない……」

「別に……いいんじゃない?無理に恋愛しなくてもさ。気づいたら、好きになってんのが恋愛だと思うし……実花子は、そのままでいいから。飾らなくてもいいよ」

グスッと鼻を啜る音が聞こえて、隣を見れば、湯呑みの中にポタンと涙が落っこちた。
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