聖なる夜は我儘なプリンセスと
「ちょ……何で泣く訳?」

「……ひっく……千歳が、泣かしたんでしょ」

僕は、スラックスのポケットから、ハンカチを取り出すと実花子の瞳の端をそっと押さえた。

「手がかかるな」

「うるさいわね……だから千歳は、モテないのよ」

「はいはい」

僕は、実花子の頭を小さい頃から美弥にするみたいに、くしゃくしゃと撫でた。

実花子は、暫くハンカチを両目に当てたままだったが、涙を拭き終わると、僕のハンカチを自分のパンツスーツのポケットに仕舞った。

「洗ってかえすから……」

僕は、思わず、ふっと笑った。 

「そう?僕、洗濯するけど」 

「いい……ちゃんと、洗って、アイロンかけて返す……」

実花子の瞳は、もうすぐ閉じてしまいそうだ。

僕は、スマホを取り出すとタクシーを呼ぶ。15分ほどで到着するみたいだ。店内からは、居酒屋では珍しい、少し早めのクリスマスソングが流れてくる。

随分前、一人で来た時に、季節に合わせて曲を流すのが、大将の趣味だと教えてもらった事を思い出した。

「実花子、タクシー呼んだから、もうちょい起きてて」

カウンターに突っ伏している、実花子の肩を、そっと()すると、実花子は、口を尖らせながら、僕を潤んだ瞳で見つめた。
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