続・23時のシンデレラ〜甘い意地悪なキスをして〜
「あれ?」
麗夜が、事務所を出て、この先の角を曲がったのは、間違いないのに、見渡しても辺りには、誰もいない。見慣れた休憩スペースにも、喫煙所の小窓もこっそり覗くが、誰も居ない。
「……で……はい、…………」
(あ……この声……)
僅かに聞こえてくる麗夜の声に耳を澄ませば、その声は喫煙所の隣の保管室からだと気付く。
私は、そっと、保管庫の扉に耳を当てた。
「……すみません、英玲奈のマネージャーさん……心配をおかけして……はい、予定通り。英玲奈に持たせてる、睡眠薬で颯には眠ってもらって……えぇ……一夜を過ごしたかのように……下品なマスコミに面白おかしく書き立てて……そうですね……』
麗夜が、はははと笑う。
「あぁ。婚約者のことですよね、ご心配な……。英玲奈のイメージダウンはないですよ……女遊びの激しい安堂不動産の副社長とのふしだらな関係……書かれたら好都合です。あくまで、英玲奈は、颯に遊ばれた被害者……それも薬を盛られて……大丈夫ですよ。英玲奈には、同情が集まり、気丈に振る舞う健気な女性というイメージで……そうですね、そのまま女優として、ドラマデビューすれば、話題にもなる」
ーーーー嘘!!
淡々と話す、麗夜の声には、いつも通り抑揚はない。私は、思わず扉に当てていた手が震えてくる。
颯を眠らせて、英玲奈を襲わせたことにして、颯を貶める気だ。そして、副社長の座から引きずり下ろす。
これが、本当の麗夜の目的だったんだ。