続・23時のシンデレラ〜甘い意地悪なキスをして〜
「いらっしゃいませ」

コンビニ独特の扉の開く音がして、私は、挨拶をしながら、振り返った。

声は、一瞬で出なくなる。

彼は、上質なスーツを見に纏い、ピカピカの革靴を鳴らして、迷わず、私の前へとやってくる。

その胸元には、山吹色の地に銀糸の入ったネクタイが揺れていた。


「美弥」 


そう名前を呼ばれたのは、いつぶりだろうか。

ずっと声が聞きたくて、顔が見たくて、抱きしめてほしくて、いつもいつも、本当は側にいて欲しかった。返事の代わりに、やっぱり涙が転がった。

「泣き虫。俺から逃げられると思った?」

「はや……て」

目の前の『23時の王子様』の顔があっという間に滲んでいく。  

私が、目元をジャンパーの裾で拭うと同時に、私のつけている名札を、颯が、指でピンッと弾いた。

「おい、誰が冬宮だよっ、偽名まで使いやがって!どうりで、探すのに時間かかったろうが」

「……探しに……来てくれたの?」

「当たり前だろうが。美弥の心配事は、全部解決したから、家帰るぞっ」

颯が、切長の瞳をキュッと細めると、そのままレジに入ってきて、私を横抱きにした。

「きゃあっ、颯っ」

私の叫び声と共に、事務所から、慌てて、鈴木店長と梨花が、飛び出してくる。
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