続・23時のシンデレラ〜甘い意地悪なキスをして〜
コンコンとドアの音が響いて、甘い香りとコーヒーの匂いが、部屋に流れ込んでくる。

「お疲れ様、朝から一悶着あったみたいね」

ソファーの前で、(こうべ)を垂ている俺の前に、コーヒーが、ことりと置かれた。

「ありがとう」

実花子が、床に散らばったままの俺と美弥の写真を眺めてから、一瞬俺を見た。

「何?」

「……別に。この間も思ったけど、颯、前より柔らかくなったわね」

この間、というのは、赤坂の料亭での話だろう。

「自分じゃ分かんねぇけど。てゆうか、星川社長の見送り助かった」

「別に。仕事だから」

実花子は、淡々と今日のスケジュールを読み上げて、スケジュール表をひらりとガラステーブルに置いた。

あの時の、俺の前で涙を流す、か弱い姿は微塵もない。

「何よ?」

「いや、別に」

実花子は、ちらりと俺をみて、すぐに視線を逸らした。

「安心して、もう颯の事、追いかけたりしないから」

こういう時、煙草が吸えたらなと思う。何て返すのが正解かわからないまま、俺は目の前のコーヒーを傾けた。
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