続・23時のシンデレラ〜甘い意地悪なキスをして〜
「麻美ちゃん、いいの」

そう絞り出した声は、思っていたよりも震えていた。

「颯さんに相応しく……ないのは分かっています。でも、ひとつだけ……安堂社長の仰っておられるような、お金目当てでは、ありません。颯さんが、副社長じゃなくても、何も持っていなくても、私は、颯さんが居れば幸せです……」

自分の掠れた、か細い声に、僅かに一瞬だけ、康二の目が、見開かれたように思えた。

「そうですか。もう少し、物分かりが良いかと思ったが、残念ですね。貴方の件は、また颯と、じっくり話しますよ。では、麻美さん、悪いが、今から少し、社長室に寄って貰えるかな?ロスのお土産を渡したくてね」

「え?でも私、美弥ちゃんと……」

「あ、麻美ちゃん、私は大丈夫だから」

麻美は、私の言葉を聞くと、申し訳なさそうに、眉を下げながら、小さく二度頷いた。

「じゃあ行こうか」

「はい……」

ハイブランドの革靴を鳴らす、康二の後ろに、やや早足で、麻美がついて行き、すぐに屋上扉が閉められた。

それを確認してから、緊張で強張っている体を両手で包むようにして、私はベンチに座り直す。

「はぁ……」

溢れた、ため息は、誰にも拾われることなく、そこら中に落っこちて、浮遊していく。ため息を吐くたび、幸せまで(こぼ)れていくと聞いた事がある。

私と颯は、一緒に居てもいいんだろうか。颯は、私と居て、幸せになれるんだろうか。私は、颯を幸せにする事も、助けになる事もできないような気がして、やっぱり俯いてしまう。
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