続・23時のシンデレラ〜甘い意地悪なキスをして〜
颯が、いるならば、何かあっても、大きな声を出せば、すぐに気づいて貰えると思うが、颯は、打ち合わせで戻りがいつなのかわからない。

颯から麗夜に近づくなと言われているのに、二人きりになる事は、避けたかった。

「何で?北沢課長より、僕がやってる専務の方が立場は上だし、聞く必要無いでしょう?」

麗夜が、こちらに更に一歩踏み出して、気づけば、私は、さらに後ろに数歩下がっていて、肩に壁が、コツンと当たった。

「警戒してる?別に取って食べたりしないよ。君みたいな、代わりなんてどこにでも居る平民に興味なんてないから」

平民という言葉に、一瞬、顔が引き攣る。綺麗な顔をしているが、その言葉には、感情がまるでない。何考えてるか分からない奴と言っていた颯の言葉が、頭をよぎる。

「それとも、颯の許可がないと何も出来ないのかな?公私混同は、社会人としてどうかと思うけど?」

私は唇を噛み締めた。

「やる気ないなら、うちでの仕事辞めたら?どうせ、颯がそばに置いときたくて、うちで働かせてるんでしょ?綾乃さんなら、もう十分働いてる訳だし」

「え?」

「ベッドの上で颯の相手するのが、主な仕事でしょ?」

「違っ……」

冷静にならなきゃいけない。ここで、大きく反応すれば、この人を余計面白がらせるだけだから。私は、一度唇をきゅっと結んでから、言葉を吐いた。

「仕事に、私のプライベートでのお話は、関係ありません……専務は、私に、打ち合わせと仰いましたが、どのような内容でしょうか?」  

ふぅん、と麗夜が面白くなさそうに片手を腰に当てた。

「アウトレットオープンに向けて、広告モデル候補の名簿を作成したんだ。女性目線からみて、どの女の子が適任か、意見聞きたいんだよね。じゃあ、着いてきて」

麗夜は、ゆっくりと、専務室へと歩いていく。私は、ブラウンのスーツの後ろ姿を眺めながら、黙って麗夜の後を追った。
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