続・23時のシンデレラ〜甘い意地悪なキスをして〜
久しぶりに聴いた、鼻にかかった甘ったるい声に、勝手に眉間に皺が寄る。

「颯、そんな嫌な顔しないで」

栗色のショートカットに淡いピンクのV字のセーター、グレーのタータンチェックのロングスカート。セーターの袖でワザと掌の真ん中辺りまで覆い、耳に髪を掛けながら、俺のデスク横で屈ん見せた。真っ赤な下着が、谷間と一緒に見える。

「やめろよ、英玲奈(えれな)

「つれないな。あの木野英玲奈(きのえれな)が、お前のために短期留学が終わってすぐにロスから日本に帰ってきたんだから」

「は?誰が頼んだよ?」

「んー、それは僕かな」

麗夜が、ブロンドの髪を揺らしながら、俺のデスクにそれを放り投げた。

放り投げられたのは、朝陽新聞系列のウィークリー週刊誌『ARA(アラ)』と20代の女性向け雑誌オリオン『ORION(オリオン)』。その『ORION』の表紙を淡いブルーのワンピースを着て、こちらにとびきりの笑顔を向けているのは、今、俺の目の前で色目を向けてくる英玲奈に間違いなかった。

「何だよ、これ?」

「英玲奈ね、いま20代なら誰もが知る人気モデルなんだよ。こういうのに疎い颯には、分からないと思うけど」

「今度、広報の一環で、英玲奈と颯の対談特集組むことになったから」

「は?」

麗夜は、俺を見下ろしながら、ブロンドの前髪を掻き上げた。 
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