甘い夢        sweet dream
「はぁー…」

今になって叩かれた頬がじわじわと痛くなってくる。まぁ、やられたのが放課後で良かった。これが、まだ授業があるとかだったら、確実にみんなに聞かれていただろう、この頬にできた手跡について。驚くことに綺麗に先輩の手が私の頬にあった。赤く腫れて。しかし、放課後と言ってもまだ学校にいる人はいるし、通学路にもそこそこいるので、持っていたマスクをしていつもより速足で家に帰ってきた。
無事誰にも見られるず、部屋にだどりつき一息ついていたのだ。

(でも…すべての原因は薫じゃん?あいつがあんなにモテるのが悪いんじゃん。だからって、なんであいつにとってはただの幼馴染の私がこんな目にあわなくちゃいけないの?)

部屋でひとり、ベットに腰かけ、ふと思う。確かに私は薫が恋愛的な感情で好きだ。でも、付き合ってるわけじゃないしなんなら、学校ではきっと私なんかより他の女子たちの方が喋ってるはずだ。家でだって、彼女が出来てから、今朝のようなことは別にして前に比べたら話す機会は格段に減った。【幼馴染】ということがなければ、私と薫ではそもそもグループが違うのだ。きっと【幼馴染】じゃなければ、接点なんてなかっただろう。

頬に当てた、タオルにくるまれた保冷剤がひんやり冷たくて、なんだか涙が出てきそうになる。なんだって華の女子高生がこんな目に合わなければいけないのだ。やはり世の中はブスや平凡な女に厳しい。きっとあの人たちが薫の彼女の先輩に何も言わないのは、先輩が綺麗で、自分たちでは叶わないと思っているからだろう。私だったら文句もイライラもぶつけやすい、と。

「桜?入るよ。」

それはやっぱり、『あの幼馴染とかいう女はそんなに可愛くも綺麗でもないのに、家が隣だからって薫の家に出入りして生意気!あんたが薫の気を引こうなんて100年早いんだよっ‼』的に思われていたんだろう。(…実際思っていたかは定かではないが、今自分が思ったことが全て本当なので、もし面と向かって言われても何も返せない。)

「桜?」

でも、あんなに薫の隣にずっといたのに、この気持ちは何も伝わっていなくて、ましてや彼女にするまえに私を練習台にするくらい、なんとも思っていないという…。気を引くどころの話じゃない。(バレンタインとかみんなとは違うの用意して毎年渡してたのに…。)言葉にしなくても分かってると思っていたのに。
そもそも薫は私が異性だって気づいているのだろうか?なんか…【幼馴染】っていうジャンルに分けられているような気がする。家族同然、みたいな。ここはやはり女子力を上げるべきなのだろうか。となると、最初はやっぱり…

「メイク…だよね。」

「え?」

「……っ!?!??」

すぐ隣から自分とは違う声が聞こえてきて、思わずベッドから転げ落ちる。

「その頬…どうしたの?」

上から聞こえてきたのは、今まで聞いたこともないような低く、掠れぎみの声色と国宝級の顔面をこれでもかというほどに歪めた、薫がいた。
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