誘惑
「どうされましたか?」
司会をしている一人のお兄さんが異変に気づいたのか、私に声をかけてきた。驚きのあまり声が全く聞こえず、返事を返さない。というか返せない。
「?」
司会者は首を傾げて、開いている冷凍庫の中を覗く。カチコチに固まった人が入れられているのに気がつき、これは事件の一種だと判断。すぐ電話に110と入力しようとした。
「あの、それだけはやめてください」
私は司会者だけに聞こえる小さな声で、ボソッと呟く。
「……なぜでしょうか?」
「冷たいあの人は高校時代の友達悠人なんです。彼を殺して冷やすなど、誰がやったのか分かりません。必然的に第一発見者が疑われてしまうので、何もしないでください」
「しかし……」
「黙って言うことを聞いてください!」
「わ、分かりました」
司会者は戸惑いながらも携帯を握りしめ、そのまま後ろのポケットに突っ込む。
「一つお聞きしたいのですが……」
「何ですか?」
私は冷凍庫から悠人を取り出すため、家から持ってきた分厚い手袋をはめて彼の脇の下に手を伸ばした。その時話しかけられたので、作業中に問いかける。
どうせ「何をしているのか」と聞いてくるのだろう。適当に答えれば大丈夫だ。自分の思ったようにやればいいだけだし。
けれど彼は、私が思っていたものと違う質問をしてきた。
「あなたが彼を殺したんですか?」
その問いを耳にした瞬間、すぐに作業を中断。振り返って、彼の表情を眺める。焦りと自信が混じっている複雑な感情が見え見えだ。
こういう時は誤魔化すべきか?
いや、誤魔化してもどうせバレるだろう。ならば今この時に、全て話すべきだ。そちらの方が楽になると思うから。
司会をしている一人のお兄さんが異変に気づいたのか、私に声をかけてきた。驚きのあまり声が全く聞こえず、返事を返さない。というか返せない。
「?」
司会者は首を傾げて、開いている冷凍庫の中を覗く。カチコチに固まった人が入れられているのに気がつき、これは事件の一種だと判断。すぐ電話に110と入力しようとした。
「あの、それだけはやめてください」
私は司会者だけに聞こえる小さな声で、ボソッと呟く。
「……なぜでしょうか?」
「冷たいあの人は高校時代の友達悠人なんです。彼を殺して冷やすなど、誰がやったのか分かりません。必然的に第一発見者が疑われてしまうので、何もしないでください」
「しかし……」
「黙って言うことを聞いてください!」
「わ、分かりました」
司会者は戸惑いながらも携帯を握りしめ、そのまま後ろのポケットに突っ込む。
「一つお聞きしたいのですが……」
「何ですか?」
私は冷凍庫から悠人を取り出すため、家から持ってきた分厚い手袋をはめて彼の脇の下に手を伸ばした。その時話しかけられたので、作業中に問いかける。
どうせ「何をしているのか」と聞いてくるのだろう。適当に答えれば大丈夫だ。自分の思ったようにやればいいだけだし。
けれど彼は、私が思っていたものと違う質問をしてきた。
「あなたが彼を殺したんですか?」
その問いを耳にした瞬間、すぐに作業を中断。振り返って、彼の表情を眺める。焦りと自信が混じっている複雑な感情が見え見えだ。
こういう時は誤魔化すべきか?
いや、誤魔化してもどうせバレるだろう。ならば今この時に、全て話すべきだ。そちらの方が楽になると思うから。