【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない
01 前世の記憶を思い出しました
色とりどりの花が咲き乱れる学園の中庭で、黒髪の男子生徒を見かけた。そのとたんに、ロベリアは自分の中に不思議な感情が湧き起こったことに気がついた。
その男子生徒を見ていると、まるで昔から知っていたかのような懐かしさを感じる。
ロベリアがその男子生徒とすれ違った時に、長い前髪の下に隠された鋭い瞳が見えた。男子生徒の姿が見えなくなったころに、側にいた妹のリリーが、うっとりとため息をつく。
「まさか、カマル殿下とすれ違うなんて! ウワサ通り、金色の髪がとても美しい方だったね、お姉様」
その言葉を聞いて、ロベリアは首をかしげた。
「金髪? そんな方、いたかしら?」
「もう、お姉様ったら、またぼんやりしていたの?」
リリーは頬をプゥと膨らませる。その可愛らしさは、姉の目から見ても国宝級だ。
王子とすれ違って舞い上がっているのか、リリーは嬉しそうに軽くスキップをしている。母親譲りのまっすぐな栗色の髪が、彼女のスキップに合わせてサラサラとゆれた。
「さっすが、王族と貴族だけが通える聖ハイネ学園ね。この中だったら、王子様とも会えちゃうんだから」
「リリー。貴女そんなに、カマル殿下のことが好きだったの? だったら今すぐ追いかけたら、少しくらいお話しできるんじゃ……」
そう言いつつ振り返ったロベリアの腕を、リリーがギュッとつかんだ。その顔には、あせりが見える。
「お姉様ったら、何を言っているの! カマル殿下の側には、こわーい護衛がいつもいるんだから! あの鋭い目、見た!? 近づいたら私たちなんて、睨み殺されちゃうわよ」
リリーの言葉を聞いて、ロベリアは先ほどの鋭い瞳の男子生徒のことを思い出した。
言われてみれば黒髪の男子生徒の側に、金髪の男子生徒もいたかもしれない。それがどうやらカマル王子で、ロベリアが見ていたのは王子に仕える護衛として入学した男子生徒のようだ。
(私はどうして殿下の護衛に懐かしさを感じたのかしら?)
不思議に思ったロベリアが「ねぇ、リリー。その護衛の方のお名前、教えてくれない?」と尋ねると、リリーは困った顔で「うーん、えっと……グラ、なんとかだったような?」と首をかしげた。
その言葉を聞いて、ロベリアの頭の中に、急に『ダグラス』という名前が浮かんだ。
「もしかして、ダグラス様?」
そう呟いた瞬間に、ロベリアの頭の中にいきなり映像が流れ込んできた。
『日本』など知らない単語が聞こえ、そこではロベリアは『華《はな》』という名前で呼ばれていた。
その『華』には、お金と時間を注ぎ込んだ大好きな『乙女ゲーム』と呼ばれる遊びがあった。
(これって、もしかして……前世の記憶というものかしら?)
ロベリアが華だったころ、そういう小説をたくさん読んでいた。ロベリアは、思わず頭を抱えた。
(ダグラス様がいる……ということは、ここは、18禁乙女ゲーム『悠久の檻』の世界だわ)
18禁というだけあり、けっこう過激な描写があったり、ストーリーによっては、嫉妬した攻略対象の男性に主人公が監禁されてしまったりと現実でおこったら大事件になってしまう展開が多い。
ロベリアは、一瞬、どうしようとあせったが、主人公の名前が『リリー』だったことを思い出し、自分は関係ないかとホッと胸を撫でおろした。
『どこのリリーさんかは知らないけど、頑張ってね』と、心の中でエールを送っておく。
「お姉様、大丈夫?」
妹のリリーの心配そうな声で、ロベリアは我に返った。
リリーから見れば、隣を歩いていたロベリアが、急に立ち止まったかと思うと青ざめて、ブツブツ言いだしたので、とても驚いただろう
ロベリアは「大丈夫よ、リリー」と、笑顔で返事をしてから、「リリー……?」と、もう一度呟き、妹の顔をまじまじと見つめた。
思わずふれてしまいたくなる栗色の髪に、翡翠のように美しい瞳。そして、まるで小動物のように愛らしい顔立ちは、守ってあげたくなってしまう。
誰にでも明るく優しいリリーは、可愛すぎて目に入れても痛くないロベリアの自慢の妹だ。
そして彼女は、まさしく、乙女ゲームの主人公リリー=ディセントラ、その人だった。
大切な身内が過激な18禁乙女ゲームの主人公と気がついてしまい、ロベリアは卒倒しそうになったが、両足に力を込めて根性で踏みとどまる。
(私が……私がリリーを守らないと……)
リリーを危険な狼野郎どもから守るだけではない。ゲームでのリリーは、意地悪な姉のロベリアに、これでもか、これでもか!とイジメられてしまうのだ。大好きな妹をそんなつらい目に合わせるわけには……。
ロベリアは、そこまで考えて、さらに重要なことに気がついた。
(意地悪な姉のロベリアって、もしかして、私のこと!?)
確かに父親に似てしまったロベリアは、リリーとは似ても似つかない外見だった。くせっ毛の金髪が波うち、派手な印象を与えるし、顔の作りもキツイ。
外見は悪役令嬢そのものだが、中身は妹が大好きなただの女の子だ。今のロベリアは、可愛い妹をイジメたいなんて少しも思わない。
そもそも、どうしてゲームの中でロベリアがリリーをイジメていたかというと、カマル王子に一目ぼれしたロベリアが、猛アタックしたにもかかわらず、王子に振り向いてもらえなかった上に、カマル王子はリリーを好きになってしまったからだった。
その結果ロベリアは、失恋の悲しみや苦しみを、妹にぶつけた。要するに完全なる逆恨みだ。
(でも、だったら、私がカマル殿下のことを好きにならなかったらいいのでは?)
そうしたら、リリーをイジメる理由が一つもない。それに、前世の華は、カマル王子には興味がなく、護衛のダグラス推しだった。
ダグラスは、メインの攻略対象者ではなかったものの、カマル王子の護衛として常にゲームのストーリーに関わってくる。
あの鋭い目つきや、怖そうな雰囲気からは想像が出来ないが、ダグラスは『緊張してしまうから』という理由で女性が苦手という設定があり、よく王子にからかわれていた。それなのに、剣を持たせたら最強になる。そのギャップが『かっこいい』『可愛い』と、ゲームプレイヤーの中でも人気があった。
前世の華もそんなギャップにやられた一人だ。どうりでどこかで会ったような気がしたわけだ。前世では、部屋の壁にダグラスのポスターを貼り、毎日飽きることなく眺めていた。
(あのダグラス様が、この学園内にいる……)
そう考えただけで、ロベリアの胸は高鳴り、頬が赤く染まる。
「お姉様、お熱でもあるの?」
心配そうに見つめるリリーにうまく返事ができない。いてもたってもいられず、ロベリアはカマル王子達が去ったほうへ走りだした。
「え? お姉様!?」
リリーが慌ててついてくる。ロベリアは、庭園の出口辺りで、金髪と黒髪の男子生徒を見つけると、立ち止まり、呼吸を整え落ち着きなく髪をさわった。
「お、お姉様……?」
ロベリアに追いついたリリーの声で、ダグラスがこちらに気がつき振り返った。正確には、カマル王子も振り返ったが、ロベリアの視界には入っていない。
ダグラスは、前髪を目が隠れるくらい長く伸ばしている。その長い前髪の下で、鋭い瞳がロベリアを射抜いた。
(本当に、ダグラス様だ)
あの長い前髪は、ダグラス自身が鋭い目を気にしていて、少しでも周りを怖がらせないようにと伸ばしている。そんな理由も可愛らしい。
ロベリアが吸い寄せられるようにダグラスに近づくと、ダグラスがカマルを守るように一歩前に出たが、ロベリアにはカマルは見えていなかった。
長身のダグラスに見下ろされ、その整った顔を近くで拝見して、ロベリアの理性は簡単に吹き飛ぶ。
「素敵……」
気がつけば、ロベリアはうっとりと頬を染め、ダグラスを見つめながらそんなことを呟いていた。
その男子生徒を見ていると、まるで昔から知っていたかのような懐かしさを感じる。
ロベリアがその男子生徒とすれ違った時に、長い前髪の下に隠された鋭い瞳が見えた。男子生徒の姿が見えなくなったころに、側にいた妹のリリーが、うっとりとため息をつく。
「まさか、カマル殿下とすれ違うなんて! ウワサ通り、金色の髪がとても美しい方だったね、お姉様」
その言葉を聞いて、ロベリアは首をかしげた。
「金髪? そんな方、いたかしら?」
「もう、お姉様ったら、またぼんやりしていたの?」
リリーは頬をプゥと膨らませる。その可愛らしさは、姉の目から見ても国宝級だ。
王子とすれ違って舞い上がっているのか、リリーは嬉しそうに軽くスキップをしている。母親譲りのまっすぐな栗色の髪が、彼女のスキップに合わせてサラサラとゆれた。
「さっすが、王族と貴族だけが通える聖ハイネ学園ね。この中だったら、王子様とも会えちゃうんだから」
「リリー。貴女そんなに、カマル殿下のことが好きだったの? だったら今すぐ追いかけたら、少しくらいお話しできるんじゃ……」
そう言いつつ振り返ったロベリアの腕を、リリーがギュッとつかんだ。その顔には、あせりが見える。
「お姉様ったら、何を言っているの! カマル殿下の側には、こわーい護衛がいつもいるんだから! あの鋭い目、見た!? 近づいたら私たちなんて、睨み殺されちゃうわよ」
リリーの言葉を聞いて、ロベリアは先ほどの鋭い瞳の男子生徒のことを思い出した。
言われてみれば黒髪の男子生徒の側に、金髪の男子生徒もいたかもしれない。それがどうやらカマル王子で、ロベリアが見ていたのは王子に仕える護衛として入学した男子生徒のようだ。
(私はどうして殿下の護衛に懐かしさを感じたのかしら?)
不思議に思ったロベリアが「ねぇ、リリー。その護衛の方のお名前、教えてくれない?」と尋ねると、リリーは困った顔で「うーん、えっと……グラ、なんとかだったような?」と首をかしげた。
その言葉を聞いて、ロベリアの頭の中に、急に『ダグラス』という名前が浮かんだ。
「もしかして、ダグラス様?」
そう呟いた瞬間に、ロベリアの頭の中にいきなり映像が流れ込んできた。
『日本』など知らない単語が聞こえ、そこではロベリアは『華《はな》』という名前で呼ばれていた。
その『華』には、お金と時間を注ぎ込んだ大好きな『乙女ゲーム』と呼ばれる遊びがあった。
(これって、もしかして……前世の記憶というものかしら?)
ロベリアが華だったころ、そういう小説をたくさん読んでいた。ロベリアは、思わず頭を抱えた。
(ダグラス様がいる……ということは、ここは、18禁乙女ゲーム『悠久の檻』の世界だわ)
18禁というだけあり、けっこう過激な描写があったり、ストーリーによっては、嫉妬した攻略対象の男性に主人公が監禁されてしまったりと現実でおこったら大事件になってしまう展開が多い。
ロベリアは、一瞬、どうしようとあせったが、主人公の名前が『リリー』だったことを思い出し、自分は関係ないかとホッと胸を撫でおろした。
『どこのリリーさんかは知らないけど、頑張ってね』と、心の中でエールを送っておく。
「お姉様、大丈夫?」
妹のリリーの心配そうな声で、ロベリアは我に返った。
リリーから見れば、隣を歩いていたロベリアが、急に立ち止まったかと思うと青ざめて、ブツブツ言いだしたので、とても驚いただろう
ロベリアは「大丈夫よ、リリー」と、笑顔で返事をしてから、「リリー……?」と、もう一度呟き、妹の顔をまじまじと見つめた。
思わずふれてしまいたくなる栗色の髪に、翡翠のように美しい瞳。そして、まるで小動物のように愛らしい顔立ちは、守ってあげたくなってしまう。
誰にでも明るく優しいリリーは、可愛すぎて目に入れても痛くないロベリアの自慢の妹だ。
そして彼女は、まさしく、乙女ゲームの主人公リリー=ディセントラ、その人だった。
大切な身内が過激な18禁乙女ゲームの主人公と気がついてしまい、ロベリアは卒倒しそうになったが、両足に力を込めて根性で踏みとどまる。
(私が……私がリリーを守らないと……)
リリーを危険な狼野郎どもから守るだけではない。ゲームでのリリーは、意地悪な姉のロベリアに、これでもか、これでもか!とイジメられてしまうのだ。大好きな妹をそんなつらい目に合わせるわけには……。
ロベリアは、そこまで考えて、さらに重要なことに気がついた。
(意地悪な姉のロベリアって、もしかして、私のこと!?)
確かに父親に似てしまったロベリアは、リリーとは似ても似つかない外見だった。くせっ毛の金髪が波うち、派手な印象を与えるし、顔の作りもキツイ。
外見は悪役令嬢そのものだが、中身は妹が大好きなただの女の子だ。今のロベリアは、可愛い妹をイジメたいなんて少しも思わない。
そもそも、どうしてゲームの中でロベリアがリリーをイジメていたかというと、カマル王子に一目ぼれしたロベリアが、猛アタックしたにもかかわらず、王子に振り向いてもらえなかった上に、カマル王子はリリーを好きになってしまったからだった。
その結果ロベリアは、失恋の悲しみや苦しみを、妹にぶつけた。要するに完全なる逆恨みだ。
(でも、だったら、私がカマル殿下のことを好きにならなかったらいいのでは?)
そうしたら、リリーをイジメる理由が一つもない。それに、前世の華は、カマル王子には興味がなく、護衛のダグラス推しだった。
ダグラスは、メインの攻略対象者ではなかったものの、カマル王子の護衛として常にゲームのストーリーに関わってくる。
あの鋭い目つきや、怖そうな雰囲気からは想像が出来ないが、ダグラスは『緊張してしまうから』という理由で女性が苦手という設定があり、よく王子にからかわれていた。それなのに、剣を持たせたら最強になる。そのギャップが『かっこいい』『可愛い』と、ゲームプレイヤーの中でも人気があった。
前世の華もそんなギャップにやられた一人だ。どうりでどこかで会ったような気がしたわけだ。前世では、部屋の壁にダグラスのポスターを貼り、毎日飽きることなく眺めていた。
(あのダグラス様が、この学園内にいる……)
そう考えただけで、ロベリアの胸は高鳴り、頬が赤く染まる。
「お姉様、お熱でもあるの?」
心配そうに見つめるリリーにうまく返事ができない。いてもたってもいられず、ロベリアはカマル王子達が去ったほうへ走りだした。
「え? お姉様!?」
リリーが慌ててついてくる。ロベリアは、庭園の出口辺りで、金髪と黒髪の男子生徒を見つけると、立ち止まり、呼吸を整え落ち着きなく髪をさわった。
「お、お姉様……?」
ロベリアに追いついたリリーの声で、ダグラスがこちらに気がつき振り返った。正確には、カマル王子も振り返ったが、ロベリアの視界には入っていない。
ダグラスは、前髪を目が隠れるくらい長く伸ばしている。その長い前髪の下で、鋭い瞳がロベリアを射抜いた。
(本当に、ダグラス様だ)
あの長い前髪は、ダグラス自身が鋭い目を気にしていて、少しでも周りを怖がらせないようにと伸ばしている。そんな理由も可愛らしい。
ロベリアが吸い寄せられるようにダグラスに近づくと、ダグラスがカマルを守るように一歩前に出たが、ロベリアにはカマルは見えていなかった。
長身のダグラスに見下ろされ、その整った顔を近くで拝見して、ロベリアの理性は簡単に吹き飛ぶ。
「素敵……」
気がつけば、ロベリアはうっとりと頬を染め、ダグラスを見つめながらそんなことを呟いていた。
< 1 / 66 >