【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない

【リリー視点】リリーから見たロベリア

 学園内を探してもロベリアは見つからなかった。

「お姉様、どこにいるのかしら?」

 リリーは横を歩くレナに声をかけた。

「レナ、付き合わせてごめんね。貴女は先にお部屋に戻っていて。私はもう少しお姉様を探すわ」

 レナに謝ると、レナはブンブンと首を左右にふる。

「……ううん、大丈夫。えっと、リリーはロベリア様と仲が良いのね」
「うん、仲良しよ。私はお姉様のこと大好きだもの。でも……」

「でも?」

 レナは不思議そうに首をかしげた。リリーは言おうか言わないでおこうか少し悩んだあとにため息をつく。

「実は、お姉様って、ぼんやりしているの」
「……え?」

 レナが驚くのも無理はない。ロベリアは、とても優秀で見た目も美しく自慢の姉だ。しかし、その自慢の姉は昔から他人に向けられる感情にとても鈍い。

「なんて言ったらいいのかな……。お姉様は、侯爵令嬢として恥ずかしくない行動をとろうと思っていて、それはとても立派なことなんだけど、それ以外は、他人にどう見られようがいっさい気にしないし、自分が周囲にどう思われているかなんて考えもしないの」

 うまく説明できないが、ロベリアは他人からの好意や悪意の感情にとても無頓着だ。

(まぁだから、あんな両親に育てられても平気なんだろうけど……)

 ロベリアとリリーの父、ディセントラ侯爵は良くも悪くも古風な考えを持つ貴族だった。

 娘たちに愛情はないが、侯爵家の繁栄のための道具として大切に育ててくれた。政略結婚だった母は、そんな父に興味はなく、娘たちに見向きもせず好き勝手生きている人だった。

 物心ついたリリーは、両親から愛されていないことに気がついて、とても苦しんだ。両親に気にかけてほしくて一生懸命良い子になった。その結果、物はたくさん与えられたが、リリーが求める愛だけはもらえなかった。

 そんなとき、愛に飢えるリリーに溢れんばかりの愛をくれたのが姉のロベリアだった。

『可愛いリリー』
『大好き』
『愛しているわ』

 両親からの愛がほしかった幼いリリーは、初めはロベリアの言葉では満足できなかった。自分に付きまとうロベリアを、リリーはうっとうしく思っていた。

(子どもだった私は、お姉様を無視したり、ときには、ひどい八つ当たりをしたりもしたわ)

 それなのにロベリアは、リリーに怒ることもなく『リリーどうしたの?』といつも優しく聞いてくれた。

 ロベリアの愛は、毎日毎日、優しい雨のように降り注ぎ、気がつけばリリーの渇いた心は愛で満たされていた。

 愛をくれない両親のことなんて今となってはどうでも良い。唯一の家族であるロベリアが幸せだったらそれで良い。しかし、そのロベリアは、どうもぼんやりとしている。

(学園に入学したら、お姉様が一人ぼっちで過ごしていて驚いたわ)

 ロベリアは少しも気にしていないようだったが、リリーは友達が一人もいないロベリアの姿を見てすごく悲しくなった。もちろん、ロベリアが嫌われているわけではない。ただ、優秀で美しいロベリアが学園内で近づき難い存在になってしまっているようだ。

 そのことにリリーが気がついたとき『アランは何をしていたの!?』と腹が立った。幼馴染なのだから、ロベリアを気にかけてくれても良かったのに。

(元からアランは、気に入らなかったのよね)

 子どものころのアランは、とにかく変わっていた。無表情でボーッとしているかと思えば、「ロベリアとリリーは、背中に羽があってお空を飛べるよね?」と謎の質問をされた。他にも「妖精って人間と同じものを食べるの?」とか、とにかく不思議な発言が多かった。

(お姉様は気にしていなかったけど、私はアランが少し気味悪かったわ)

 父は、ロベリアかリリーをアランに嫁がせ公爵夫人の座に据えようとしているが、アランの妻になるなんてリリーは絶対に嫌だった。そして、もちろんロベリアにももっと素敵な人と結婚してほしいと思っている。

(お姉様には、カマル殿下のような方がお似合いだと思っていたけど……)

 カマルとすれ違ったときに、ロベリアがカマルをどう思っているのか探りを入れると、予想外に護衛騎士ダグラスへの恋心を明かされてしまった。

 ダグラスは、身体が大きいし、長く伸ばした前髪が陰気だし、とにかく雰囲気が怖い。ダグラスのことを調べてみると、学生でありながら騎士の称号を得ていてすごいのだけど、身分は伯爵家の三男でロベリアとは釣り合わない。

(よりによって、アレ!? どうして!? 怖すぎるわよ!)

 そう思うのはリリーだけではない。カマルに近づきたい女性はたくさんいるが、ダグラスが怖くて近づけないでいる。

(可憐なお姉様があんなのに近づいたら、パクッと食べられてしまうわ!)

 ロベリアは『私の使命は、貴女を幸せにすることだわ。リリーは、絶対に幸せになるからね』と言ってくれた。その言葉がリリーはとても嬉しかった。だからこそ、決めたことがある。

(私の使命だって、お姉様を幸せにすることだわ! 絶対にお姉様は幸せになるべきよ!)

 だからこそ、ロベリアが不用意にダグラスに近づかないように見張る必要があった。

 リリーから、『ロベリアが実はぼんやりとしている』と聞かされたレナは、フワッと微笑んだ。

「……リリーはロベリア様が心配で探しているのね」
「そうなの。だから、付き合わなくていいわ」

 レナはプラチナブロンドの髪を揺らしながら首を左右にふった。

「わ、わたしも、この学園にお兄様がいるの。とっても賢く優しい尊敬できるお兄様なの。だから、リリーの気持ち分かるわ」

 レナは「もう少しロベリア様を探しましょう?」と言ってくれた。

「ありがとう」

 リリーは、教室で一人ぼっちだったレナの姿を思い出した。

(一人ぼっちのお姉様の姿と重なって、つい声をかけてしまったけど、レナと友達になれて良かったわ)

 リリーとレナは並んで歩き出した。
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