【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない

22 そ、そんなに嫌ですか?

 ロベリアは胸が高鳴るのを抑えられなかった。狭いロッカーの中では、どうしてもダグラスと身体が密着してしまう。

(ダグラス様の筋肉質な太もも、厚い胸板、たくましい二の腕……最高)

 気を抜くと興奮して荒くなりそうな息を、ロベリアは理性をかき集めてグッとこらえた。

(ダメダメ、ただでさえダグラス様に嫌われてるんだから、ストーカーの上に変態だと思われたら、いいかげん訴えられてしまうわ!)

 乙女ゲームの主人公ならまだしも、悪役令嬢のロベリアにときめきイチャラブイベントなんて起こるはずがない。しかも、相手が好感度ゼロどころかマイナスになっていそうなダグラスなので、この状況をうまく解決しないと、本当にダグラスに訴えられて断罪されかねないとロベリアは焦った。

(ダグラス様……怒っているわよね?)

 ダグラスを見ると、なぜか両腕を上げていた。もちろん、狭いロッカーの中なので、真っすぐには上がらず曲がっている。

(あっこれ、満員電車に乗ったときに『両手を上げているので女性の身体を触っていません。俺は痴漢していませんアピール』のやつ……。そんなことしなくても、ダグラス様に痴漢されたなんて思わないのに……)

 それほど自分との仲を誤解されたくないのかと思うと、悲しいを通り越して少し笑えてきた。そして、笑うと気持ちが落ち着く。

 ロベリアは、もぞもぞと動くと、ロッカーの取っ手をもう一度よく見た。

「ダグラス様。ロッカーの扉は壊れているのではなく、錆びついているみたいです。何回か叩けば開くかもしれません」

 ダグラスからは返事がないので、ロベリアは動ける範囲で身体をよじって扉を叩いてみる。

「……か、ないで」
「え?」

「動かないでください!」

 ダグラスの必死な声に驚いた。

「でも、扉を開けないと……」
「いいから、貴女はそれ以上動かないで!」

 ダグラスを見ると、苦しそうに口元を歪めて必死に顔を背けている。

「ダグラス様、苦しいのですか? やっぱり、早く開けないと!」
「ちがっ!」

 こちらを向いたダグラスの顔は、薄暗いロッカーの中でも分かるくらい赤い。

「ダグラス様?」

 体調でも悪いのかと心配になったロベリアがダグラスの顔を覗き込むと、虚ろな瞳をしたダグラスが浅い呼吸を繰り返し見つめ返してくる。

「……ロベリア様」

 ひどくかすれた声で名前を呼ばれて、ロベリアは泣きたくなった。

「嫌、ですよね。きらいな女とこんなところに閉じ込められて……本当にごめんなさい」

 とたんにダグラスの鋭い瞳が、我に返ったかのように大きく見開かれた。

 ガンッと激しい音と衝撃が起こったかと思うと、錆びついたロッカーの扉が外れて吹き飛んでいく。ダグラスは、ロベリアをロッカー内から押し出すと逃げるように走り去った。

 ロベリアは、突然のことで何が起こったのか分からなかったが、吹き飛んだロッカーの扉がひしゃげて地面に転がっているのを見て状況を察した。

(あ、そっか。ダグラス様、私と密着しているのが嫌で、ロッカーを殴り飛ばして無理やり開けたんだわ)

 一人取り残されたロベリアは「そこまで、嫌がらなくても……」とひどく落ち込んだ。
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