【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない
26 ロベリアが悪役令嬢になった理由
楽しい朝食を終えたロベリアは、学年が異なるリリーたちと分かれて、一人で教室に向かった。
(リリーとレナが私と同学年だったら、授業中も楽しかったのに)
相変わらず友達がいないロベリアが、そんなことをぼんやりと考えていたせいで、朝日に輝く銀髪の美青年が背後から近づいてきたことにすぐに気がつけなかった。
「きゃあ、アラン様よ! 素敵」という黄色い悲鳴を聞いたロベリアが、慌てて振り返るとアランがこちらに向かって手を振っている。
(うげっ!? サイコパス、アラン……)
つい令嬢にあるまじき声が出そうになったが、必死にこらえてロベリアは上品に微笑んだ。
「おはよう、アラン」
「ロベリア、おはよう。ねぇねぇ、ロベリア。ダンスの教室まで一緒に行こうよ」
(行きたくない、とは言えないわ)
ロベリアが返事をする前にアランは、ロベリアと並んで歩き出す。
「今日も君は綺麗だね」
嫌味なくサラリと褒めるアランは、相変わらず好青年にしか見えない爽やかな笑みを浮かべている。
ロベリアは、乙女がうっとりしてしまうようなアランの笑みを冷ややかに見つめながら、ソルの言葉を思い出していた。
――アランくんは、どちらかというと、こちら側の人間なので、犯罪に手を染めていても私は驚きません。
(元暗殺部隊にいた先生に、こちらの側の人間と言われる、私の幼馴染っていったい……)
前世でゲームをプレイしていたときは、『アランの冷酷な一面と、愛する人の前でだけ見せる甘い態度とのギャップがいい』と思っていたが、今では、『シャレにならない危険さ。お願いだから私とリリーに関わらないで』と心の底から願っている。
(でも、アランを無視したら、何かされそうで怖い……)
そういうわけで、ロベリアは今まで通りに、当たりさわりなくアランの幼馴染を演じることを決めていた。精一杯の作り笑いを浮かべながら、ロベリアはアランを褒め返す。
「アランも今日も素敵ね」
誠実そうなグレイの瞳を優しく細めたあとに、アランはロベリアの耳元に口を近づけ囁く。
「ねぇ、ロベリアがカマル殿下と婚約するって本当?」
「えっ!?」
驚いてアランを見ると、端正な顔がすぐ近くにあった。
(ひっ!?)
慌てて一歩下がると、アランにクスッと笑われてしまう。
「その反応を見る限り、ウワサはウソみたいだね」
「そんなウワサが広がっているの?」
「うん、学園中に」
「……そう」
アランに「否定しなくていいの?」と聞かれたが、ウワサを簡単に消すことはできないし、ダグラスに嫌われた今、否定して回っても意味がない。
「いいの。ウワサなんて気にしても仕方ないわ」
「ダグラスは? ダグラスに誤解されてもいいの?」
単刀直入に聞かれて、ロベリアは「うっ」と詰まってしまった。アランには、以前流れでダグラスへの片思いを相談してしまったので、今さら誤魔化すことはできない。
真摯にこちらを見つめるアランは、ロベリアが話すまで解放してくれなさそうだ。
「その、ダグラス様に、たくさんご迷惑をかけて嫌われてしまって……。それに、ダグラス様には、他に好きな女性がいたの」
アランは、整った眉を下げて悲しそうな顔をしながら、ポンポンと優しくロベリアの頭をなでた。
「つらかったね。頑張ったね。ロベリアはえらいよ」
「アラン……」
そう優しく語りかけられると、これが全て演技だと分かっていても、胸に響いて目尻に涙が滲んでしまう。
(アランのこういうところ、本当に怖いわ)
警戒していても、スルリと心の深いところへ入り込んでくる。アランは、苦しそうに「ロベリアの良さが分からないなんて、ダグラスは見る目がないね」と言ってくれた。そして、少し怒った口調で「ダグラスが好きなこって誰?」と尋ねた。
「さぁ? 分からないけど、きっと素敵な人よ」
「君のほうが、ずっと素敵だよ。ダグラスは、そのこに騙されているんじゃないかな?」
「そんなわけないわ」
アランは何を言っているのだろうと思っていると、ロベリアはアランに優しく手を握られた。
「前に、カマル殿下狙いで、ダグラスに近づいた令嬢がいたんだ。ダグラスを落として踏み台にして、カマル殿下とお近づきになろうとしたみたい」
「そんな……ひどいわ!」
「ね? 今回もそういう令嬢にダグラスが騙されているかもしれないよ?」
透き通った瞳で語りかけてくるアランの言葉は蜜のように甘い。
「僕はロベリアの味方だよ。ねぇ、僕と一緒にダグラスを騙している女を探して、ダグラスを助けてあげよう? そうしたら、ダグラスもきっとロベリアに感謝してくれるよ」
「私が……?」
信じたら幸せになれそうな未来を、アランは優しく指し示してくれる。
(私がダグラス様を悪い女から助けたら、ダグラス様に好きになってもらえる……?)
フワフワとなびいていきそうになる気持ちを、ロベリアは『アランに、ホルマリン漬けにされるぞ!』という最悪のワードで叩きのめした。
(あっぶない……。えっと?)
アランの言葉を冷静に分析すると、『僕と一緒に、ダグラスの想い人を見つけて、二人の仲を引き裂こう』と言っている。
(何それ!? 典型的な悪役令嬢の行動じゃない!?)
今、サイコパスアランの口車にのって、悪役令嬢ロベリアが誕生しそうになっていた。
(ちょっと待って……。もしかして、優しいロベリアが、ゲームの中では人が変わったように悪役令嬢になってリリーをいじめたのって……今みたいにアランに誘導されたから?)
おそるおそるアランを見ると、聖人のような神々しい笑みを浮かべている。その笑顔の裏が恐ろしい。
(……きっと、そうなんだわ。じゃないと、ロベリアがいくら好きな人に振られたからって、急にリリーをいじめるなんておかしいもの! ゲームのロベリアは、カマルに失恋したあと、アランに傷ついた心の隙をつかれて操られてしまったのね)
目の前のアランは、心配そうな表情を浮かべて「大丈夫?」と首をかしげる。
(こ、この……サイコパス! いったい何が目的なのよ!?)
恐怖より怒りに震えながらロベリアは「だ、大丈夫よ」と返した。
「ロベリア、顔色が悪いよ」
「……うん、ごめんなさい。少し気分が悪くて。私、今日はダンスの授業をお休みするわ。先生に伝えておいてね」
一刻も早くアランと距離を取りたくてロベリアは、来た道を急いで戻った。
(リリーとレナが私と同学年だったら、授業中も楽しかったのに)
相変わらず友達がいないロベリアが、そんなことをぼんやりと考えていたせいで、朝日に輝く銀髪の美青年が背後から近づいてきたことにすぐに気がつけなかった。
「きゃあ、アラン様よ! 素敵」という黄色い悲鳴を聞いたロベリアが、慌てて振り返るとアランがこちらに向かって手を振っている。
(うげっ!? サイコパス、アラン……)
つい令嬢にあるまじき声が出そうになったが、必死にこらえてロベリアは上品に微笑んだ。
「おはよう、アラン」
「ロベリア、おはよう。ねぇねぇ、ロベリア。ダンスの教室まで一緒に行こうよ」
(行きたくない、とは言えないわ)
ロベリアが返事をする前にアランは、ロベリアと並んで歩き出す。
「今日も君は綺麗だね」
嫌味なくサラリと褒めるアランは、相変わらず好青年にしか見えない爽やかな笑みを浮かべている。
ロベリアは、乙女がうっとりしてしまうようなアランの笑みを冷ややかに見つめながら、ソルの言葉を思い出していた。
――アランくんは、どちらかというと、こちら側の人間なので、犯罪に手を染めていても私は驚きません。
(元暗殺部隊にいた先生に、こちらの側の人間と言われる、私の幼馴染っていったい……)
前世でゲームをプレイしていたときは、『アランの冷酷な一面と、愛する人の前でだけ見せる甘い態度とのギャップがいい』と思っていたが、今では、『シャレにならない危険さ。お願いだから私とリリーに関わらないで』と心の底から願っている。
(でも、アランを無視したら、何かされそうで怖い……)
そういうわけで、ロベリアは今まで通りに、当たりさわりなくアランの幼馴染を演じることを決めていた。精一杯の作り笑いを浮かべながら、ロベリアはアランを褒め返す。
「アランも今日も素敵ね」
誠実そうなグレイの瞳を優しく細めたあとに、アランはロベリアの耳元に口を近づけ囁く。
「ねぇ、ロベリアがカマル殿下と婚約するって本当?」
「えっ!?」
驚いてアランを見ると、端正な顔がすぐ近くにあった。
(ひっ!?)
慌てて一歩下がると、アランにクスッと笑われてしまう。
「その反応を見る限り、ウワサはウソみたいだね」
「そんなウワサが広がっているの?」
「うん、学園中に」
「……そう」
アランに「否定しなくていいの?」と聞かれたが、ウワサを簡単に消すことはできないし、ダグラスに嫌われた今、否定して回っても意味がない。
「いいの。ウワサなんて気にしても仕方ないわ」
「ダグラスは? ダグラスに誤解されてもいいの?」
単刀直入に聞かれて、ロベリアは「うっ」と詰まってしまった。アランには、以前流れでダグラスへの片思いを相談してしまったので、今さら誤魔化すことはできない。
真摯にこちらを見つめるアランは、ロベリアが話すまで解放してくれなさそうだ。
「その、ダグラス様に、たくさんご迷惑をかけて嫌われてしまって……。それに、ダグラス様には、他に好きな女性がいたの」
アランは、整った眉を下げて悲しそうな顔をしながら、ポンポンと優しくロベリアの頭をなでた。
「つらかったね。頑張ったね。ロベリアはえらいよ」
「アラン……」
そう優しく語りかけられると、これが全て演技だと分かっていても、胸に響いて目尻に涙が滲んでしまう。
(アランのこういうところ、本当に怖いわ)
警戒していても、スルリと心の深いところへ入り込んでくる。アランは、苦しそうに「ロベリアの良さが分からないなんて、ダグラスは見る目がないね」と言ってくれた。そして、少し怒った口調で「ダグラスが好きなこって誰?」と尋ねた。
「さぁ? 分からないけど、きっと素敵な人よ」
「君のほうが、ずっと素敵だよ。ダグラスは、そのこに騙されているんじゃないかな?」
「そんなわけないわ」
アランは何を言っているのだろうと思っていると、ロベリアはアランに優しく手を握られた。
「前に、カマル殿下狙いで、ダグラスに近づいた令嬢がいたんだ。ダグラスを落として踏み台にして、カマル殿下とお近づきになろうとしたみたい」
「そんな……ひどいわ!」
「ね? 今回もそういう令嬢にダグラスが騙されているかもしれないよ?」
透き通った瞳で語りかけてくるアランの言葉は蜜のように甘い。
「僕はロベリアの味方だよ。ねぇ、僕と一緒にダグラスを騙している女を探して、ダグラスを助けてあげよう? そうしたら、ダグラスもきっとロベリアに感謝してくれるよ」
「私が……?」
信じたら幸せになれそうな未来を、アランは優しく指し示してくれる。
(私がダグラス様を悪い女から助けたら、ダグラス様に好きになってもらえる……?)
フワフワとなびいていきそうになる気持ちを、ロベリアは『アランに、ホルマリン漬けにされるぞ!』という最悪のワードで叩きのめした。
(あっぶない……。えっと?)
アランの言葉を冷静に分析すると、『僕と一緒に、ダグラスの想い人を見つけて、二人の仲を引き裂こう』と言っている。
(何それ!? 典型的な悪役令嬢の行動じゃない!?)
今、サイコパスアランの口車にのって、悪役令嬢ロベリアが誕生しそうになっていた。
(ちょっと待って……。もしかして、優しいロベリアが、ゲームの中では人が変わったように悪役令嬢になってリリーをいじめたのって……今みたいにアランに誘導されたから?)
おそるおそるアランを見ると、聖人のような神々しい笑みを浮かべている。その笑顔の裏が恐ろしい。
(……きっと、そうなんだわ。じゃないと、ロベリアがいくら好きな人に振られたからって、急にリリーをいじめるなんておかしいもの! ゲームのロベリアは、カマルに失恋したあと、アランに傷ついた心の隙をつかれて操られてしまったのね)
目の前のアランは、心配そうな表情を浮かべて「大丈夫?」と首をかしげる。
(こ、この……サイコパス! いったい何が目的なのよ!?)
恐怖より怒りに震えながらロベリアは「だ、大丈夫よ」と返した。
「ロベリア、顔色が悪いよ」
「……うん、ごめんなさい。少し気分が悪くて。私、今日はダンスの授業をお休みするわ。先生に伝えておいてね」
一刻も早くアランと距離を取りたくてロベリアは、来た道を急いで戻った。