【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない
04 攻略対象者を分析します②アラン
アランの恐怖の裏ルートを思い出し、ロベリアが震えているとアランに優しく声をかけられた。
「ロベリア、寒いの?」
『いえ、怖いの、あなたが』と言えるはずもなく、ロベリアは微笑む。
「少しだけ」
「風邪でも引いたのかな? 無理しないでね」
「もう大丈夫よ」
「君のことが心配なんだ……大切だから」
アランは、乙女ゲームの攻略者の鑑のようなセリフを言いながら心配そうな顔をする。
(これは、サイコパスだとは見抜けないわ……)
前世の記憶を思い出す前のロベリアは、まんまとこの演技に騙されアランのことを誠実で優しい幼馴染だと思っていた。
「ありがとう、アラン」
ダンスレッスン用の教室にたどり着いても、アランはロベリアの側にいて離れてくれない。
(どこかに行ってくれないかしら? 私からアランを避けるわけにもいかないし……)
ロベリアが困っているうちにダンスの授業が始まった。そのとたんに、アランが急にかしこまり、ロベリアに向かって礼儀正しく頭を下げる。
「踊っていただけますか? ロベリア姫」
教室のあちらこちらから、アランに見とれた乙女たちの熱いため息が聞こえる。女生徒たちの「うらやましいわ」という声もロベリアの耳に届いた。
そんなことを言うのなら、今すぐ代わってほしいとロベリアは思ったが、ここでアランに『いつものロベリアではない』と怪しまれるわけにはいかない。
ロベリアは作り笑いを顔に貼り付けると、スカートを少し持ち上げ、膝を軽く曲げ、身体を少しだけ下げた。
前世の記憶から、日本人流の丁寧に頭を下げるお辞儀をしたい気持ちもあったが、こちらでは深く頭を下げることは相手への絶対服従の意味になるので、軽々しくやってはいけない。
ロベリアは、アランの手を取り、曲に合わせてステップを踏んだ。
ダンスは得意だった。ダンスだけではない。ロベリアは勉強もスポーツもなんでもできた。派手な外見とは裏腹に、根が真面目なので、侯爵家の令嬢として恥ずかしくないように、できないことはできるようになるまで練習を続けるひたむきさも持っていた。
(自分で言うのもなんだけど、現実のロベリアって本当に良い子よね……)
ゲームの中のロベリアは、悪役令嬢らしく「カマル殿下に相応しいのは私よ!」と主人公に言い放つシーンがあり、その時は『何を根拠に……』とあきれたが、今なら少しだけ分かる気がする。
(でも、どうしてロベリアは、あんな風になってしまったのかしら?)
いくらカマル王子に振られたからといって、現実のロベリアとゲームの中のロベリアが別人すぎて結びつけることができない。
『悠久の檻』は最初から最後まで、主人公のリリー視点でストーリーが進むので、もしかすると、ゲームの中では語られていない何かがロベリアに起こっていたのかもしれない。
そんなことを考えていると、急に腰を引き寄せられた。気が付けば、アランの端正な顔がすぐ目の前にある。
「ロベリア。今日は、うわの空だね。やっぱり体調が悪いの?」
「大丈夫よ、ごめんなさい」
(そういえば、私、アランとダンスを踊っていたんだった。気を引き締めないと)
アランのグレーの瞳に見つめられると、心の奥まで見透かされてしまいそうで怖い。ようやく曲が終わった。アランと会釈を交わし、離れようとすると、アランに優しく右手をつかまれた。
「ロベリア、いつでも僕を頼ってね」
「ありがとう、アラン。でも本当に私は大丈夫よ」
ロベリアは、アランから距離を取ると、教室の窓際に身を寄せた。ダンスレッスンの授業は、一年生の時にダンスの基礎を叩きこまれるので、二年生以降は、授業中に一度踊ってしまえば、後は何をしていても構わないという楽な授業だ。
ロベリアが、そっとアランを盗み見ると、他の男子生徒と楽しそうに話している。
(アランって、友達がすごく多いのよね)
アランは、いつも人に囲まれている。それに比べて、ロベリアに近づく人は一人もいない。
(そういえば、私、友達が一人もいないわ)
前世の記憶を思い出すまで気にしたことがなかったが、ロベリアは自分がぼっちなことに気がついてしまい、少しだけ悲しくなった。
ダンスの授業が終わると、今日の午後の予定は全て終わりだ。
ロベリアは、「寮の前まで一緒に帰ろうよ」と言うアランのお誘いを断りたい気持ちを必死に抑えて、平常心を装いながら頷いた。
いつものようにたわいもない話をして、女子寮の入り口でアランと別れた。アランの姿が見えなくなると、どっと疲れが押し寄せてくる。
(アランだけはダメよ、私の死亡ルートがあるんだから……)
そこでふと、ロベリアは『アランだけだったかしら?』と思った。前世の華は、主人公のリリーのことは大好きだったが、悪役令嬢のロベリアのことなんて興味がなかった。もしかしたら、アランルート以外にもロベリアの死亡ルートが存在していたかもしれない。
前世では、ダグラス見たさにカマル王子ルートは何度もクリアしたし、アランルートも好きだったのでよく覚えている。しかし、後の二人の攻略対象者は、それぞれ表と裏のルートを一回ずつしかクリアしていない。
(後の二人は、世紀の天才レグリオと、この学園の教師ソルね)
この二人のルートもしっかりと思い出してノートに書かなければ。
ロベリアが、そんなことを考えながら女子寮の廊下を歩いていると、後ろから「おねぇさまー!」と可愛らしい声が聞こえてきた。
「ロベリア、寒いの?」
『いえ、怖いの、あなたが』と言えるはずもなく、ロベリアは微笑む。
「少しだけ」
「風邪でも引いたのかな? 無理しないでね」
「もう大丈夫よ」
「君のことが心配なんだ……大切だから」
アランは、乙女ゲームの攻略者の鑑のようなセリフを言いながら心配そうな顔をする。
(これは、サイコパスだとは見抜けないわ……)
前世の記憶を思い出す前のロベリアは、まんまとこの演技に騙されアランのことを誠実で優しい幼馴染だと思っていた。
「ありがとう、アラン」
ダンスレッスン用の教室にたどり着いても、アランはロベリアの側にいて離れてくれない。
(どこかに行ってくれないかしら? 私からアランを避けるわけにもいかないし……)
ロベリアが困っているうちにダンスの授業が始まった。そのとたんに、アランが急にかしこまり、ロベリアに向かって礼儀正しく頭を下げる。
「踊っていただけますか? ロベリア姫」
教室のあちらこちらから、アランに見とれた乙女たちの熱いため息が聞こえる。女生徒たちの「うらやましいわ」という声もロベリアの耳に届いた。
そんなことを言うのなら、今すぐ代わってほしいとロベリアは思ったが、ここでアランに『いつものロベリアではない』と怪しまれるわけにはいかない。
ロベリアは作り笑いを顔に貼り付けると、スカートを少し持ち上げ、膝を軽く曲げ、身体を少しだけ下げた。
前世の記憶から、日本人流の丁寧に頭を下げるお辞儀をしたい気持ちもあったが、こちらでは深く頭を下げることは相手への絶対服従の意味になるので、軽々しくやってはいけない。
ロベリアは、アランの手を取り、曲に合わせてステップを踏んだ。
ダンスは得意だった。ダンスだけではない。ロベリアは勉強もスポーツもなんでもできた。派手な外見とは裏腹に、根が真面目なので、侯爵家の令嬢として恥ずかしくないように、できないことはできるようになるまで練習を続けるひたむきさも持っていた。
(自分で言うのもなんだけど、現実のロベリアって本当に良い子よね……)
ゲームの中のロベリアは、悪役令嬢らしく「カマル殿下に相応しいのは私よ!」と主人公に言い放つシーンがあり、その時は『何を根拠に……』とあきれたが、今なら少しだけ分かる気がする。
(でも、どうしてロベリアは、あんな風になってしまったのかしら?)
いくらカマル王子に振られたからといって、現実のロベリアとゲームの中のロベリアが別人すぎて結びつけることができない。
『悠久の檻』は最初から最後まで、主人公のリリー視点でストーリーが進むので、もしかすると、ゲームの中では語られていない何かがロベリアに起こっていたのかもしれない。
そんなことを考えていると、急に腰を引き寄せられた。気が付けば、アランの端正な顔がすぐ目の前にある。
「ロベリア。今日は、うわの空だね。やっぱり体調が悪いの?」
「大丈夫よ、ごめんなさい」
(そういえば、私、アランとダンスを踊っていたんだった。気を引き締めないと)
アランのグレーの瞳に見つめられると、心の奥まで見透かされてしまいそうで怖い。ようやく曲が終わった。アランと会釈を交わし、離れようとすると、アランに優しく右手をつかまれた。
「ロベリア、いつでも僕を頼ってね」
「ありがとう、アラン。でも本当に私は大丈夫よ」
ロベリアは、アランから距離を取ると、教室の窓際に身を寄せた。ダンスレッスンの授業は、一年生の時にダンスの基礎を叩きこまれるので、二年生以降は、授業中に一度踊ってしまえば、後は何をしていても構わないという楽な授業だ。
ロベリアが、そっとアランを盗み見ると、他の男子生徒と楽しそうに話している。
(アランって、友達がすごく多いのよね)
アランは、いつも人に囲まれている。それに比べて、ロベリアに近づく人は一人もいない。
(そういえば、私、友達が一人もいないわ)
前世の記憶を思い出すまで気にしたことがなかったが、ロベリアは自分がぼっちなことに気がついてしまい、少しだけ悲しくなった。
ダンスの授業が終わると、今日の午後の予定は全て終わりだ。
ロベリアは、「寮の前まで一緒に帰ろうよ」と言うアランのお誘いを断りたい気持ちを必死に抑えて、平常心を装いながら頷いた。
いつものようにたわいもない話をして、女子寮の入り口でアランと別れた。アランの姿が見えなくなると、どっと疲れが押し寄せてくる。
(アランだけはダメよ、私の死亡ルートがあるんだから……)
そこでふと、ロベリアは『アランだけだったかしら?』と思った。前世の華は、主人公のリリーのことは大好きだったが、悪役令嬢のロベリアのことなんて興味がなかった。もしかしたら、アランルート以外にもロベリアの死亡ルートが存在していたかもしれない。
前世では、ダグラス見たさにカマル王子ルートは何度もクリアしたし、アランルートも好きだったのでよく覚えている。しかし、後の二人の攻略対象者は、それぞれ表と裏のルートを一回ずつしかクリアしていない。
(後の二人は、世紀の天才レグリオと、この学園の教師ソルね)
この二人のルートもしっかりと思い出してノートに書かなければ。
ロベリアが、そんなことを考えながら女子寮の廊下を歩いていると、後ろから「おねぇさまー!」と可愛らしい声が聞こえてきた。