【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない
【ダグラス視点】モヤモヤの正体
ロベリアとリリーの護衛が終わると、ダグラスは鍛錬場へ向かった。一心不乱に木剣を振っても、鬱屈した気分は少しも晴れない。
(リリー様が私に向ける、あの目……)
過去にカマルに言い寄るために、ダグラスに近づいてきた女性たちと同じ冷ややかな目だった。ダグラスへの嫌悪をひた隠しながら、好意的であるかのように振る舞う手口も同じだ。
(リリー様は、私のことを騙そうとしている。それなのに……)
リリーがダグラスに甘えるような言動を取ると、ロベリアが嬉しそうにする。なんなら、リリーを抱きしめて「可愛いわ、リリー」と絶賛する。その様子をみるたび、ダグラスはモヤモヤしてしまい、心に重苦しいものが溜まっていった。
(なんだ、この感情は?)
別にリリーの態度や行動に腹が立っているわけではない。女性に好かれるような外見でもないし、もとよりロベリア以外に好かれたいとも思わないので、今さらそういう態度を取られても気にならない。
ただ、護衛が終わると、ダグラスの脳裏に、リリーをなでるロベリアの白い手や、優しく抱きしめる細い腕や、リリーに「可愛いわ」と囁く唇が焼きついて離れなくなってしまう。
それらを振り払うように、ここ数日、木剣を振っているが何も解決せず、どんどん苦しくなっていく。数日前は確かに『恋は素晴らしい』と思ったはずなのに、恋には苦しさも伴うものだと今さらながらに知ってしまった。
いつの間にか日は暮れて、鍛錬場に他の生徒たちはいなくなっていた。隠れてこちらをうかがっている気配を感じたダグラスは、ようやく木剣を振るのをやめる。
「私に何かご用ですか? アラン様」
尋ねると訓練場の柱の影からアランが現れた。薄暗闇の中で、アランの銀髪が鍛錬場の外灯に照らされ淡く光っている。
アランは、ダグラスではなく外灯に誘われて集まってきた羽虫に視線を向けた。
「まったく……光のように美しい妖精の羽をちぎって手に入れようとしたら、妖精にまとわりついているナイト気取りの羽虫が落ちてくるんだもの。本当にロベリアには、驚かされてばかりだよ」
アランの口ぶりだと、『光のように美しい妖精』はロベリアを指していて、『ナイト気取りの羽虫』はダグラスのことを指しているようだ。だとすれば、アランはロベリアに何らかの危害を加えようとしていたことになる。
「ダグラス、そんなに怖い顔をしないで。僕は君の味方だよ」
アランは、まるで聖職者のような笑みを浮かべたが、ダグラスは警戒を解かなかった。悪人はいつでも無害な者を装い、こちらの隙をつこうとする。
「君は今、とても苦しいでしょう?」
返事はしない。会話は相手に隙を与える。
「その苦しみ、僕には分かるなぁ」
まるで舞台役者のようにアランは自身の胸に手を当てた。
「リリーってひどいよね? 君を騙そうとしているんだ」
(そんなことは知っている。別にひどいとは思わない。ロベリア様には害がないので、私はどう扱われてもかまわない)
アランがここに来た目的は分からないが、ダグラスは、これ以上アランを相手にしても無駄だと判断した。
「……失礼します」
アランに背を向けると、その背中越しに声をかけられる。
「それなのにさ、リリーだけロベリアに可愛がられてズルくない?」
「!?」
ダグラス自身も分からなかった正体不明のモヤモヤを言い当てられ、ダグラスは心を重くしている感情が『リリーへの嫉妬』だと気がついてしまった。
思わず足を止めたダグラスに、アランはゆっくりと近づいてくる。
「リリーは人を騙すような悪い子なのに、ロベリアに頭をなでられて、抱きしめられて、褒めてもらえるんだよ? だったらさ、ロベリアを守っている良い子のダグラスは、もっともっとロベリアに褒めてもらえないとおかしいよねぇ?」
アランの言う通りだった。リリーがロベリアに褒められるたびに、うらやましくて仕方がなかった。
あの白い手で頭をなでられたい。細い腕で抱きしめられたい。たくさん褒めてもらいたい。
気がつけば、ダグラスの肩にアランが手を置いていた。
「ダグラス、僕が協力してあげようか? ほら、僕はロベリアの幼馴染だから、君の役に立てると思うよ」
グラリと心が揺れたのが分かった。
「ねぇ、ロベリアを手に入れたいでしょう? 自分だけのものにしたいよね?」
「ロベリア様を……手に入れる? 自分だけのものに……?」
それはまるで悪魔の囁きだった。木剣を握りしめるダグラスの手に力が入る。
「ロベリアってさ、貴族なら当然知っている男女の作法を知らないんだよ。すっごく可愛いよね。これからは、ダグラスが優しくいろいろ教えてあげなくちゃね」
「……」
ダグラスは肩に置かれていたアランの手を握った。
「分かってくれて嬉し……?」
握った手に徐々に力を込めていく。
「ちょ、痛っ、いただだだだっ!? 力が強いよ! 」
握り潰す寸前でアランの手を離した。アランは弾けるようにダグラスと距離を取る。
「な、何!? ダグラス、どうしたの?」
「……ロベリア様を手に入れる、自分だけのものにする、だと?」
腹の中がぐつぐつと煮えたぎり、殺気が抑えきれない。
「女神を……ロベリア様をもののように扱おうとする言動……。しかも、私ごときが神々しいロベリア様に男女の作法を手ほどきする、だと……? 男女の作法など知るか! そんなもの私が教えを乞(こ)いたいくらいだ!」
ダグラスは木剣をアランに突きつけた。
「ロベリア様が『すっごく可愛い』という言葉だけには同意してやる! だが、女神を愚弄する輩(やから)は許さん!」
「……あれ? そうくるの? さすがにこの展開は予想外だったよ。君もロベリア並みに読めない男だねぇ」
アランは楽しそうに微笑んだ。
(リリー様が私に向ける、あの目……)
過去にカマルに言い寄るために、ダグラスに近づいてきた女性たちと同じ冷ややかな目だった。ダグラスへの嫌悪をひた隠しながら、好意的であるかのように振る舞う手口も同じだ。
(リリー様は、私のことを騙そうとしている。それなのに……)
リリーがダグラスに甘えるような言動を取ると、ロベリアが嬉しそうにする。なんなら、リリーを抱きしめて「可愛いわ、リリー」と絶賛する。その様子をみるたび、ダグラスはモヤモヤしてしまい、心に重苦しいものが溜まっていった。
(なんだ、この感情は?)
別にリリーの態度や行動に腹が立っているわけではない。女性に好かれるような外見でもないし、もとよりロベリア以外に好かれたいとも思わないので、今さらそういう態度を取られても気にならない。
ただ、護衛が終わると、ダグラスの脳裏に、リリーをなでるロベリアの白い手や、優しく抱きしめる細い腕や、リリーに「可愛いわ」と囁く唇が焼きついて離れなくなってしまう。
それらを振り払うように、ここ数日、木剣を振っているが何も解決せず、どんどん苦しくなっていく。数日前は確かに『恋は素晴らしい』と思ったはずなのに、恋には苦しさも伴うものだと今さらながらに知ってしまった。
いつの間にか日は暮れて、鍛錬場に他の生徒たちはいなくなっていた。隠れてこちらをうかがっている気配を感じたダグラスは、ようやく木剣を振るのをやめる。
「私に何かご用ですか? アラン様」
尋ねると訓練場の柱の影からアランが現れた。薄暗闇の中で、アランの銀髪が鍛錬場の外灯に照らされ淡く光っている。
アランは、ダグラスではなく外灯に誘われて集まってきた羽虫に視線を向けた。
「まったく……光のように美しい妖精の羽をちぎって手に入れようとしたら、妖精にまとわりついているナイト気取りの羽虫が落ちてくるんだもの。本当にロベリアには、驚かされてばかりだよ」
アランの口ぶりだと、『光のように美しい妖精』はロベリアを指していて、『ナイト気取りの羽虫』はダグラスのことを指しているようだ。だとすれば、アランはロベリアに何らかの危害を加えようとしていたことになる。
「ダグラス、そんなに怖い顔をしないで。僕は君の味方だよ」
アランは、まるで聖職者のような笑みを浮かべたが、ダグラスは警戒を解かなかった。悪人はいつでも無害な者を装い、こちらの隙をつこうとする。
「君は今、とても苦しいでしょう?」
返事はしない。会話は相手に隙を与える。
「その苦しみ、僕には分かるなぁ」
まるで舞台役者のようにアランは自身の胸に手を当てた。
「リリーってひどいよね? 君を騙そうとしているんだ」
(そんなことは知っている。別にひどいとは思わない。ロベリア様には害がないので、私はどう扱われてもかまわない)
アランがここに来た目的は分からないが、ダグラスは、これ以上アランを相手にしても無駄だと判断した。
「……失礼します」
アランに背を向けると、その背中越しに声をかけられる。
「それなのにさ、リリーだけロベリアに可愛がられてズルくない?」
「!?」
ダグラス自身も分からなかった正体不明のモヤモヤを言い当てられ、ダグラスは心を重くしている感情が『リリーへの嫉妬』だと気がついてしまった。
思わず足を止めたダグラスに、アランはゆっくりと近づいてくる。
「リリーは人を騙すような悪い子なのに、ロベリアに頭をなでられて、抱きしめられて、褒めてもらえるんだよ? だったらさ、ロベリアを守っている良い子のダグラスは、もっともっとロベリアに褒めてもらえないとおかしいよねぇ?」
アランの言う通りだった。リリーがロベリアに褒められるたびに、うらやましくて仕方がなかった。
あの白い手で頭をなでられたい。細い腕で抱きしめられたい。たくさん褒めてもらいたい。
気がつけば、ダグラスの肩にアランが手を置いていた。
「ダグラス、僕が協力してあげようか? ほら、僕はロベリアの幼馴染だから、君の役に立てると思うよ」
グラリと心が揺れたのが分かった。
「ねぇ、ロベリアを手に入れたいでしょう? 自分だけのものにしたいよね?」
「ロベリア様を……手に入れる? 自分だけのものに……?」
それはまるで悪魔の囁きだった。木剣を握りしめるダグラスの手に力が入る。
「ロベリアってさ、貴族なら当然知っている男女の作法を知らないんだよ。すっごく可愛いよね。これからは、ダグラスが優しくいろいろ教えてあげなくちゃね」
「……」
ダグラスは肩に置かれていたアランの手を握った。
「分かってくれて嬉し……?」
握った手に徐々に力を込めていく。
「ちょ、痛っ、いただだだだっ!? 力が強いよ! 」
握り潰す寸前でアランの手を離した。アランは弾けるようにダグラスと距離を取る。
「な、何!? ダグラス、どうしたの?」
「……ロベリア様を手に入れる、自分だけのものにする、だと?」
腹の中がぐつぐつと煮えたぎり、殺気が抑えきれない。
「女神を……ロベリア様をもののように扱おうとする言動……。しかも、私ごときが神々しいロベリア様に男女の作法を手ほどきする、だと……? 男女の作法など知るか! そんなもの私が教えを乞(こ)いたいくらいだ!」
ダグラスは木剣をアランに突きつけた。
「ロベリア様が『すっごく可愛い』という言葉だけには同意してやる! だが、女神を愚弄する輩(やから)は許さん!」
「……あれ? そうくるの? さすがにこの展開は予想外だったよ。君もロベリア並みに読めない男だねぇ」
アランは楽しそうに微笑んだ。