【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない
31 闇落ち悪役令嬢を回避しました
食堂をあとにしたロベリアは、おぼつかない足取りで一人、渡り廊下を歩いていた。
(リリーは、ダグラス様が好き……)
ロベリアの頭の中に、食堂での光景がぐるぐると回る。リリーの表情は見えなかったが、ダグラスはリリーに抱きつかれてとても戸惑っていた。
(さ、さすがダグラス様……。超絶美少女に抱きつかれて、あの反応……)
そう思いつつも、ロベリアの心は沈む。
(……でも、ダグラス様だって、リリーに好きと言われて嫌な気分にはならなかったわよね。私なんて、せっかくダグラス様に告白してもらったのに、保留にした嫌な女だし……)
これから二人は少しずつ時間をかけて愛を育んでいくのかもしれない。
(リリーとダグラス様は、すごくお似合いだわ。それに、ダグラス様なら安心してリリーを任せられるもの)
大好きなリリーとダグラスは、幸せになるに違いない。それは確かにロベリアが望んだ最高のハッピーエンドだった。
(それなのに……)
リリーとダグラスが抱き合ったのを見たとたんに、ロベリアの胸の奥からドロリとした嫌な感情が溢れてきた。
――ずるいわ、うらやましい、どうしてダグラス様の側にいるのが私じゃないの?
醜く黒い感情が沸き起こり、ロベリアは急にリリーを憎みたくなった。と同時にリリーの愛らしい笑みが脳裏に浮かぶ。
――お姉様。
満面の笑みのリリーが、ロベリアに微笑みかけてくる。
――お姉さま、大好き。
(……違う、リリーは何も悪くない! そんなこと、本当は分かっているわ!)
それでも、悲しいのだから仕方ない。ボロボロとこぼれる涙を拭きもせず、ロベリアは庭園のすみに向かった。
(こんな顔じゃ、女子寮に戻れない)
点々とつづく外灯をたどり、誰もいない庭園のベンチに座る。
(わ、私が、あのとき、ダグラス様の告白に『はい』と答えていたら、今ごろダグラス様と付き合えていたかも……)
ダグラスの胸に飛び込んでいたのは、リリーではなく自分だったかもしれない。もう取り返しのつかないことを考えると、激しい後悔に襲われた。
今ならアランに唆(そそのか)されなくても、ゲームの悪役令嬢ロベリアばりに、ひどい嫌がらせができそうだ。ダグラスの想い人を罵(ののし)って嘲(あざけ)ってイジメ倒して『貴女がダグラス様に相応しいとでも思っているの?』と醜悪な笑みを浮かべながら高笑いができてしまう。
(……でも、ダメ。だって、相手はリリーだもの。そんなことしたくない。リリーにはどうしても幸せになってほしい)
そう思っても、悲しい気持ちと胸の苦しさで押しつぶされてしまいそうだ。
どれくらい一人で泣いていたのか分からない。『いいかげん、女子寮に戻らないと』と思い、ロベリアがベンチから立ち上がると、遠慮がちに「あ、あの」と声をかけられた。
見ると、外灯ひとつ分、離れた場所にレナが立っていた。
「レナさん!? こんなところでどうしたの?」
「ロ、ロベリア様とお話がしたくて……」
「もしかして、ずっとそこで待っていてくれたの?」
レナは、一生懸命コクコクとうなずく。どうやら、ロベリアが泣き止むまで、少し離れた場所で待っていてくれたようだ。
ロベリアがレナの側に近づき「ごめんなさい、ありがとう」と伝えると、レナはブンブンと音が鳴りそうなくらい勢いよく首を左右に振ったあとに、持っていたノートをギュッと胸に抱え込んだ。
「あ、あのですね。すごく、すごくおかしいんです!」
「何が?」
首をかしげるロベリアに、レナは「さっきの、食堂のことです」とオドオドしながら言った。
「食堂って……。あなたも、あそこにいたの?」
「いいえ、いませんでした。でも、女子寮内がすごく騒がしくて、通りがかったこに、何があったのか聞いたんです」
紫色の瞳が、外灯の明かりに照らされて知性的に輝いている。
「ロベリア様。リリーがダグラス様に告白するなんて、おかしいです」
レナは、いつもとは違いはっきりきっぱりと言い切った。
「どうして、そう思うの?」
レナは、手に持っていたノートをパラパラめくる。
「前に、わたしが『不思議な記憶』が王国や王族を救ったことがあるという逸話を話したこと、覚えてらっしゃいますか?」
「確か、王国や王族に危機が迫ったとき、その周囲の人に不思議な記憶がよみがえり、その記憶を使って危険を回避した、だったかしら?」
レナからその話を聞いたとき、ロベリアは『もし、不思議な記憶が転生者の記憶なら、過去に私以外にも転生の記憶を使って運命を変えた人がいたのかもしれない』と思った。
「ロベリア様には、『転生前の記憶』があるんですよね?」
「そうね」
「それって、もしかして、未来予知ですか?」
「うーん?」
正確にはゲームのシナリオを知っているだけだが、未来に起こることをある程度知っているので、未来予知と呼べるのかもしれない。
「そうね。私は、これから起こる先のことを知っているわ」
「それは、ひどい未来ですか?」
「ハッピーエンドもあれば、バッドエンドもあるわ。私は複数の未来を知っているの」
「重要人物は、リリーですか?」
ゲームのヒロインはリリーなので、ロベリアはうなずいた。
「でしたら、やっぱりおかしいです。この『不思議な記憶』は、『王国や王族に危機がせまったとき』にしか現れたことがないんです。そして、記憶がよみがえるのは、その人を一番助けたいと思っている人です。なので、過去には、王太子殿下の婚約者や、国王陛下の側近に当たる方が『不思議な記憶』を得たそうです」
「でも、私が助けたいのはリリーよ?」
レナは「えっと……」と言いながら言葉を選んでいるようだ。
「そうなんです。ロベリア様は、リリーを愛していて、リリーを一番助けたいと思っています。でも、リリーは王族ではありませんし、この国の主要人物でもないんです」
「と、いうことは?」
「リリーは、将来、王族になる可能性がとても高いということです」
レナの言葉でロベリアは、ゲームのカマルルートを思い出した。カマルとエンディングを迎えたリリーは、王太子妃となり、ゆくゆくは王妃として国王になったカマルを支えることになる。
「もしかして、レナは『リリーはカマル殿下と結婚しないとおかしい』と言いたいの?」
レナはコクコクとうなずいた。
「もちろん、ロベリア様の能力が例外で、逸話とまったく関係がない可能性もあります。でも……それでも……」
うつむいたレナは、覚悟を決めたように顔をあげてロベリアを見つめた。
「わたしは、リリーの友達です。入学してからずっとリリーを見てきました。リリーがダグラス様を好きになるなんて有り得ません。もし、奇跡が起こって本当にリリーがダグラス様を好きになったとしたら、彼女は絶対に告白なんてしません。だって、リリーはロベリア様が大好きだから!」
ふぅふぅと荒く息を吐きながら、レナは顔を真っ赤にする。
「大好きな人の好きな人を奪おうとするなんて、リリーはそんな子じゃないです! リリーはすごく優しくて、本当にロベリア様のことをいつも心配していて……だから、だから……」
レナな瞳に涙が浮かぶ。
「こ、こんなの、おかしいです! 絶対にリリーに何かあったに違いません!」
ロベリアは泣きじゃくるレナを抱きしめた。
「そうね……そうよね。私ったら、どうかしていたわ」
そもそも侯爵令嬢として育てられたリリーが公衆の面前で告白すること自体がおかしい。
ロベリアは、話術で人をいとも簡単におかしくすることができる人物を知っていた。
(……アラン)
(リリーは、ダグラス様が好き……)
ロベリアの頭の中に、食堂での光景がぐるぐると回る。リリーの表情は見えなかったが、ダグラスはリリーに抱きつかれてとても戸惑っていた。
(さ、さすがダグラス様……。超絶美少女に抱きつかれて、あの反応……)
そう思いつつも、ロベリアの心は沈む。
(……でも、ダグラス様だって、リリーに好きと言われて嫌な気分にはならなかったわよね。私なんて、せっかくダグラス様に告白してもらったのに、保留にした嫌な女だし……)
これから二人は少しずつ時間をかけて愛を育んでいくのかもしれない。
(リリーとダグラス様は、すごくお似合いだわ。それに、ダグラス様なら安心してリリーを任せられるもの)
大好きなリリーとダグラスは、幸せになるに違いない。それは確かにロベリアが望んだ最高のハッピーエンドだった。
(それなのに……)
リリーとダグラスが抱き合ったのを見たとたんに、ロベリアの胸の奥からドロリとした嫌な感情が溢れてきた。
――ずるいわ、うらやましい、どうしてダグラス様の側にいるのが私じゃないの?
醜く黒い感情が沸き起こり、ロベリアは急にリリーを憎みたくなった。と同時にリリーの愛らしい笑みが脳裏に浮かぶ。
――お姉様。
満面の笑みのリリーが、ロベリアに微笑みかけてくる。
――お姉さま、大好き。
(……違う、リリーは何も悪くない! そんなこと、本当は分かっているわ!)
それでも、悲しいのだから仕方ない。ボロボロとこぼれる涙を拭きもせず、ロベリアは庭園のすみに向かった。
(こんな顔じゃ、女子寮に戻れない)
点々とつづく外灯をたどり、誰もいない庭園のベンチに座る。
(わ、私が、あのとき、ダグラス様の告白に『はい』と答えていたら、今ごろダグラス様と付き合えていたかも……)
ダグラスの胸に飛び込んでいたのは、リリーではなく自分だったかもしれない。もう取り返しのつかないことを考えると、激しい後悔に襲われた。
今ならアランに唆(そそのか)されなくても、ゲームの悪役令嬢ロベリアばりに、ひどい嫌がらせができそうだ。ダグラスの想い人を罵(ののし)って嘲(あざけ)ってイジメ倒して『貴女がダグラス様に相応しいとでも思っているの?』と醜悪な笑みを浮かべながら高笑いができてしまう。
(……でも、ダメ。だって、相手はリリーだもの。そんなことしたくない。リリーにはどうしても幸せになってほしい)
そう思っても、悲しい気持ちと胸の苦しさで押しつぶされてしまいそうだ。
どれくらい一人で泣いていたのか分からない。『いいかげん、女子寮に戻らないと』と思い、ロベリアがベンチから立ち上がると、遠慮がちに「あ、あの」と声をかけられた。
見ると、外灯ひとつ分、離れた場所にレナが立っていた。
「レナさん!? こんなところでどうしたの?」
「ロ、ロベリア様とお話がしたくて……」
「もしかして、ずっとそこで待っていてくれたの?」
レナは、一生懸命コクコクとうなずく。どうやら、ロベリアが泣き止むまで、少し離れた場所で待っていてくれたようだ。
ロベリアがレナの側に近づき「ごめんなさい、ありがとう」と伝えると、レナはブンブンと音が鳴りそうなくらい勢いよく首を左右に振ったあとに、持っていたノートをギュッと胸に抱え込んだ。
「あ、あのですね。すごく、すごくおかしいんです!」
「何が?」
首をかしげるロベリアに、レナは「さっきの、食堂のことです」とオドオドしながら言った。
「食堂って……。あなたも、あそこにいたの?」
「いいえ、いませんでした。でも、女子寮内がすごく騒がしくて、通りがかったこに、何があったのか聞いたんです」
紫色の瞳が、外灯の明かりに照らされて知性的に輝いている。
「ロベリア様。リリーがダグラス様に告白するなんて、おかしいです」
レナは、いつもとは違いはっきりきっぱりと言い切った。
「どうして、そう思うの?」
レナは、手に持っていたノートをパラパラめくる。
「前に、わたしが『不思議な記憶』が王国や王族を救ったことがあるという逸話を話したこと、覚えてらっしゃいますか?」
「確か、王国や王族に危機が迫ったとき、その周囲の人に不思議な記憶がよみがえり、その記憶を使って危険を回避した、だったかしら?」
レナからその話を聞いたとき、ロベリアは『もし、不思議な記憶が転生者の記憶なら、過去に私以外にも転生の記憶を使って運命を変えた人がいたのかもしれない』と思った。
「ロベリア様には、『転生前の記憶』があるんですよね?」
「そうね」
「それって、もしかして、未来予知ですか?」
「うーん?」
正確にはゲームのシナリオを知っているだけだが、未来に起こることをある程度知っているので、未来予知と呼べるのかもしれない。
「そうね。私は、これから起こる先のことを知っているわ」
「それは、ひどい未来ですか?」
「ハッピーエンドもあれば、バッドエンドもあるわ。私は複数の未来を知っているの」
「重要人物は、リリーですか?」
ゲームのヒロインはリリーなので、ロベリアはうなずいた。
「でしたら、やっぱりおかしいです。この『不思議な記憶』は、『王国や王族に危機がせまったとき』にしか現れたことがないんです。そして、記憶がよみがえるのは、その人を一番助けたいと思っている人です。なので、過去には、王太子殿下の婚約者や、国王陛下の側近に当たる方が『不思議な記憶』を得たそうです」
「でも、私が助けたいのはリリーよ?」
レナは「えっと……」と言いながら言葉を選んでいるようだ。
「そうなんです。ロベリア様は、リリーを愛していて、リリーを一番助けたいと思っています。でも、リリーは王族ではありませんし、この国の主要人物でもないんです」
「と、いうことは?」
「リリーは、将来、王族になる可能性がとても高いということです」
レナの言葉でロベリアは、ゲームのカマルルートを思い出した。カマルとエンディングを迎えたリリーは、王太子妃となり、ゆくゆくは王妃として国王になったカマルを支えることになる。
「もしかして、レナは『リリーはカマル殿下と結婚しないとおかしい』と言いたいの?」
レナはコクコクとうなずいた。
「もちろん、ロベリア様の能力が例外で、逸話とまったく関係がない可能性もあります。でも……それでも……」
うつむいたレナは、覚悟を決めたように顔をあげてロベリアを見つめた。
「わたしは、リリーの友達です。入学してからずっとリリーを見てきました。リリーがダグラス様を好きになるなんて有り得ません。もし、奇跡が起こって本当にリリーがダグラス様を好きになったとしたら、彼女は絶対に告白なんてしません。だって、リリーはロベリア様が大好きだから!」
ふぅふぅと荒く息を吐きながら、レナは顔を真っ赤にする。
「大好きな人の好きな人を奪おうとするなんて、リリーはそんな子じゃないです! リリーはすごく優しくて、本当にロベリア様のことをいつも心配していて……だから、だから……」
レナな瞳に涙が浮かぶ。
「こ、こんなの、おかしいです! 絶対にリリーに何かあったに違いません!」
ロベリアは泣きじゃくるレナを抱きしめた。
「そうね……そうよね。私ったら、どうかしていたわ」
そもそも侯爵令嬢として育てられたリリーが公衆の面前で告白すること自体がおかしい。
ロベリアは、話術で人をいとも簡単におかしくすることができる人物を知っていた。
(……アラン)